・・・正元元年より二年にかけては大疫病流行し、「四季に亙つて已まず、万民既に大半に超えて死を招き了んぬ。日蓮世間の体を見て、粗一切経を勘ふるに、道理文証之を得了んぬ。終に止むなく勘文一通を造りなして、其の名を立正安国論と号す。文応元年七月十六日、・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかし、民衆だって、ずるくて汚くて慾が深くて、裏切って、ろくでも無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチ・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・あたしたちの稼ぎの大半は、おかみに差し上げているんだ。おかみはその金をお前たちにやって、こうして料理屋で飲ませているんだ。馬鹿にするな。女だもの、子供だって出来るさ。いま乳呑児をかかえている女は、どんなにつらい思いをしているか、お前たちには・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・けれども観衆の大半は、ひょっとしたら、やっぱり侘びしい人たちばかりなのではあるまいか。日劇を、ぐるりと取り巻いている入場者の長蛇の列を見ると、私は、ひどく重い気持になるのである。「映画でも見ようか。」この言葉には、やはり無気力な、敗者の溜息・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・このたびの戦争で家を失った人たちの大半は、いつか一たびは一家心中という手段を脳裡に浮べたに違いない。「毛布は、よせよ」「ケチだなあ、お前は」 とさらにしつこく、ねばろうとしていた時に、女房はお膳を運んで来た。「やあ、奥さん」・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・ ちょうど、東北地方がさかんに空襲を受けていた頃で、仙台は既に大半焼かれ、また私たちが上野駅のコンクリートの上にごろ寝をしていた夜には、青森市に対して焼夷弾攻撃が行われたようで、汽車が北方に進行するにつれて、そこもやられた、ここもやられ・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・玉島のあたりははらかた釣りが夥しいが、女子供が大半を占めている。種崎の渡しの方には、茶船の旗が二つ見えて、池川の雨戸は空しく締められてこれも悲しい。孕の山には紅葉が見えて美しい。碇を下ろして皆端艇へ移る。例のハイカラは浜行の茶船へのる。自分・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・ 突発した事件の目撃者から、その直後に聞き取ったいわゆる証言でも大半は間違っている。これは実験心理学者の証明するとおりである。そのいわゆる実見談が、もう一人の仲介者を通じて伝えられる時は、もう肝心の事実はほとんど蒸発してしまって、他のよ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・博覧会の跡は大半取り崩されているが、もとの一号館から四号館の辺は、閉鎖したままで残っている。壁はしみに汚れ、明り取りの窓硝子はところどころ破れ落ちかかって煤けている。おおかた葉をふるうた桜の根には取りくずした木材が乱雑に積み上げられて、壁土・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・すなわち、もしもすべての人が絶対必要として争って購買するものならば何も高い広告料を払って大新聞の第一ページの大半を占有する必要は少しもないであろう。反対に広告などはいっさいせずに秘密にしておいても、人々はそれからそれと聞き伝えて、どうかして・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
出典:青空文庫