・・・なんでも駆けまわっていたり、争ったり組みついたりすることが大好きなのだ。」 木の芽は、まだ地の上に産まれてから、幾日もたたないので、ものを見てもまぶしくてしかたがないほどでありましたから、こう、風におしゃべりをされると、ただ空怖ろしいよ・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・そこにはおまえの大好きな餌が、たくさんに水の中に浮いています。そして、もし、おまえがそれを食べようものならたいへんだ。おまえは、針に引っかかって、人間のために、水の上へ釣り上げられて、やがて死んでしまうのです。だから、けっして、お母さんとい・・・ 小川未明 「魚と白鳥」
・・・俺は夕焼けの方を見るのが大好きだ。けれど、そんないい国があるなどとは知らなかった。おまえは、ほんとうにいって見てきたのか。」「私は、太陽の近くまでいって見てきました。」と、からすはいいました。「太陽の近くへ? 真紅だろうな。しかしお・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・ 正雄さんも歴史は大好きなもんですから、「僕も歴史は好きだ。やはり海の学校の読本にも、壇の浦の合戦のことが書いてあるかえ。」とききました。「それはあるさ、義経の八そう飛びや、ネルソンの話など、先生からいつきいてもおもしろいや。」・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・その日の打ち合わせを書いたほかに、僕は文楽が大好きです、ことに文三の人形はあなたにも是非見せてあげたいなどとあり、そのみみずが這うような文字で書かれた手紙が改めていやになった。それに文三とは誰だろう。そんな人形使いはいない。たぶん文五郎と栄・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・とうとうおしまいには日頃から大好きだったアングルの橙色の重い本までなおいっそうの堪えがたさのために置いてしまった。――なんという呪われたことだ。手の筋肉に疲労が残っている。私は憂鬱になってしまって、自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めてい・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・其他に慰みとか楽みとかいって玩弄物を買うて貰うようなことは余り無かったが、然し独楽と紙鳶とだけは大好きであっただけそれ丈上手でした。併し独楽は下劣の児童等と独楽あてを仕て遊ぶのが宜くないというので、余り玩び得なかったでした。紙鳶は他の子供が・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・ギンは、ようやく口をきいて、「私はあなたが大好きです。どうか私の家の人になって下さい。」とたのみました。しかし女の人はよういに聞き入れてくれませんでした。ギンは言葉をつくして、いくども/\たのみました。すると湖水の女はしまいにやっと承知・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・私は天皇を好きである。大好きである。しかし、一夜ひそかにその天皇を、おうらみ申した事さえあった。 × 日本は無条件降伏をした。私はただ、恥ずかしかった。ものも言えないくらいに恥ずかしかった。 ×・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・「君は、あいつの小説、好きかね。」 私は、わざと意味ありげに、にやにや笑った。「大好き。あの人の花物語という小説、」言いかけて、ふっと口を噤んだ。「あら! あなただわ。まあ、私、どうしよう。写真で知ってるわよ。知ってるわよ。」・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
出典:青空文庫