・・・描写は殆谷崎潤一郎氏の大幅な所を思わせる程達者だ。何でも平押しにぐいぐい押しつけて行く所がある。尤もその押して行く力が、まだ十分江口に支配され切っていない憾もない事はない。あの力が盲目力でなくなる時が来れば、それこそ江口がほんとうの江口にな・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・現に二三度は往来へ立ち止まって、近くの飾窓から、大幅の光がさす中に、しっきりなく飛びまわる紙屑を、じっと透かして見た事もありました。実際その時はそうして見たら、ふだんは人間の眼に見えない物も、夕暗にまぎれる蝙蝠ほどは、朧げにしろ、彷彿と見え・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 風立つ中を群って、颯と大幅に境内から、広小路へ散りかかる。 きちがい日和の俄雨に、風より群集が狂うのである。 その紛れに、女の姿は見えなくなった。 電車の内はからりとして、水に沈んだ硝子函、車掌と運転手は雨にあたかも潜水夫・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・その崋山の大幅というのは、心地よげに大口を開けて尻尾を振上げた虎に老人が乗り、若者がひいている図で、色彩の美しい密画であった。「がこれだってなかなか立派なもんじゃないか。東京の鑑定家なんていうものの言うことも迂濶に信用はできまいからね。・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・一ばん先に欲しがられた雀こ、大幅こけるどもし、おしめの一羽は泣いても泣いても足えへんでば。 いつでもタキは、一ばん先に欲しがられるのだずおん。いつでもマロサマは、おしめにのこされるのだずおん。 タキ、よろずよやの一人あねこで、うって・・・ 太宰治 「雀こ」
・・・ジョコンダの模写を見ると本物の価値が始めてよく分るし、ルウベンスの模写を見ると、ルウベンスの大幅が到る処のギャレリイにのさばっている理由が明白になると思う。 マイヨオルのものの見えないのが物足りない。何か訳があって出ないのではないかを心・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・という題で相当な大幅である。ほとんど一面に朱と黄の色彩が横溢して見るもまぶしいくらいなので、一見しただけではすぐにこれが自分の昔なじみの庭だということがのみ込めなかった。しかし、少し見ているうちに、まず一番に目についたのは、画面の中央の下方・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・もしそれだけが協力なら、戦争の間は、最も大幅に協力があったことになる。兵営と前線生活では婦人のすることがすべて不幸な召集された男の手によってされていた。銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これが・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・世界のなかに新しい日本として生きてゆくために、そしてまたわたしたちの新しい生活を築いてゆくために、婦人の生きかたというものは、もっともっとよく考えられ、よく組織され、大幅に前進しなければならないという痛切な反省であると思います。 これま・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・機械器具製造では男子二一パーセント増しに対して女子三〇パーセントという大幅の増加がある。精巧工業では男子一六パーセント増に対して女子六一パーセント増、特に造船業・運搬用具製造業などでは男子三五パーセント増に対して女子一〇七パーセント増。二年・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
出典:青空文庫