・・・何しろ貴方、先の二十七年八年の日清戦争の時なんざ、はじめからしまいまで、昨日はどこそこの城が取れた、今日は可恐しい軍艦を沈めた、明日は雪の中で大戦がある、もっともこっちがたが勝じゃ喜びなさい、いや、あと二三ヶ月で鎮るが、やがて台湾が日本のも・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ 二十五年前には日清、日露の二大戦役が続いて二十年間に有ろうと想像したものは一人も無かった。戦争を予期しても日本が大勝利を得て一躍世界の列強に伍すようになると想像したものは一人も無かった。それを反対にいつかは列強の餌食となって日本全国が・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
僕は終戦後間もなくケストネルの「ファビアン」という小説を読んだ。「ファビアン」は第一次大戦後の混乱と頽廃と無気力と不安の中に蠢いている独逸の一青年を横紙破りの新しいスタイルで描いたもので、戦後の日本の文学の一つの行き方を、・・・ 織田作之助 「土足のままの文学」
・・・欧洲大戦当時、フランスとイギリスのブルジョアジーは、ベルギーと、その他の国民の解放のために戦争を行っていると主張して民衆を欺いた。ほんとは、自分の掠奪した植民地を保持するために戦争をやっていたのだ。独逸の帝国主義者は、又、イギリスやフランス・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・それに国との手紙の往復にも多くの日数がかかり世界大戦争の始まってからはことに事情も通じがたいもどかしさに加えて、三年の月日の間には国のほうで起こった不慮な出来事とか種々の故障とかがいっそう旅を困難にした。私も、外国生活の不便はかねて覚悟して・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ディオニシアスは遂にシラキュース人を率いて、それらのアフリカ人と大戦をしました。そして手ひどく打ち負してしまいました。 そんなわけで、ディオニシアスはシラキュース中で第一ばんの幅利きになりました。それでだんだんにほかの議政官たちを押しの・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・世界的なんだ。いまは、数学が急激に、どんどん変っているときなんだ。過渡期が、はじまっている。世界大戦の終りごろ、一九二〇年ごろから今日まで、約十年の間にそれは、起りつつある。」きのう学校で聞いて来たばかりの講義をそのまま口真似してはじめるの・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・私どもも、大戦中から闇の商売などして、その罰が当って、こんな化け物みたいな人間を引受けなければならなくなったのかも知れませんが、しかし、今晩のような、ひどい事をされては、もう詩人も先生もへったくれもない、どろぼうです、私どものお金を五千円ぬ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・しかし、それから五年経ち、大戦の辛苦を嘗めるに及んで、あの「東京八景」だけでは、何か足りないような気がして、こんどは一つ方向をかえ、私がこれまで東京に於いて発表して来た作品を主軸にして、私という津軽の土百姓の血統の男が、どんな都会生活をして・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・あの人たちは、大戦中でも、私たちの、何の頼りにもならなかった。私は、あの時、あの人たちの正体を見た、と思った。 あやまればいいのに、すみませんとあやまればいいのに。もとの姿のままで死ぬまで同じところに居据ろうとしている。 所謂「若い・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫