・・・男がいつでも自分の義務と大望とをうまく両立させているのは明かですことよ。本当に、それは、注目すべきことです」「ふむ。――それなら別な風に考えて見給え。その男にとって、仕事に出る必要なんかはちっともなかったとして見給え。その男が出かけるこ・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・という大きい希望に今やもう一つの、更に困難で、投機的ないかにも当時らしい性質をもった大望が加えられた。それは、「自分も金持になって、貴族になりたい」という願望である。一八三〇年前後のパリがそれを中心として二六時中たぎり立っていた「成上り」の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・これほどまでに人生的な大望に身をこがす一人の成熟しきった女性にとって、活動の機会を与えられず過ぎてゆく日々は如何に苦悩そのものであったかは、彼女の正直な次の告白が語っている。「人生三十一年、好ましいと思われるものは死ばかりである」と。 ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・従って性格のうちに、極自然な人生に対する愛と、よき意味での大望がゆっくり芽生えました。父母の遺伝もあり、自己の傾向もあって、十七歳以後、理想主義的気質が、私の生存の柱となっていました。これを一歩突込んでいえば、異常な惨苦をなめない、健康な生・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・佐助の眼を突く心理を少しも書かずに、あの作を救おうという大望の前で、作者の顔はこの誤魔化しをどうすれば通り抜けられるかと一身に考えふけっているところが見えてくるのである。 佐藤春夫氏は極力作者に代って弁解されたが、あの氏の弁明は要するに・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫