・・・ 章子と東京の袋物の話など始めた女将の、大柄ななりに干からびたような反歯の顔を見ているうちに、ひろ子は或ることから一種のユーモアを感じおかしくなって来た。彼女はその感情をかくして、「一寸、あんたの手見せてごらんなさい」と云った。・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・みんな金属工場から志願し、選抜されて来ている連中だ。大柄な、頼もしい婦人青年同盟員たちだ。 寄宿舎を、やはり女で、政治的活動をやっている同志に案内されて見学したとき彼女は、或ひとつのドアを外からコツコツと叩いた。内から元気な若い女の声が・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・といい、道をゆずって一人の大柄な女を室の中へ入れた。 ――「学者の家」の監督やってる人です、とても親切なんだ。 それからロシア語で、 ――御紹介しましょう、こちらがエレーナ・アレクサンドロヴナ。 ――我等の主婦、ユアサ・サン・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ リージンの大柄な口紅を濃くつけた細君は、いかにも夫の手抜かりを攻める面持で、自分たちのいる横で二人だけあっちへのせろ、と云っている。リージンは自分から誘って坐席の割前を助かろうとした手前、ではあっちへ二人でとは云いかね、「そんなことは・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
二三日前の夜、おそく小田急に乗った。割合にすいていて、珍しく腰をおろした。隣りに大柄な壮年の男のひとがいて、書類鞄から出した本を、しきりに調べている。その隣りの席に黒い外套に白いマフラーをつけ、縁なしの眼鏡をかけた三十歳が・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・姓がかわっていたばかりでなく、この下の弟は、全く母に似て、ぼーっと肥った大柄だった。わたしや上の弟が父ゆずりで小柄だったのにひきかえて――こういうことは、みんなずっとあとにおこったことがらだった。そのころはまだ田端の汽車や、牧田の牛や子供の・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・紡績の絣の着物と羽織に海老茶の袴をはいて、級で一番背が高かったばかりでなく、成績が大変いいのと、成績がいいのに、その組にいる武さんと云った金持の子が何かというといじめるというので、注意をひかれていた。大柄のおとなしい縹緻よしで、受け口のつつ・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ 熱の高低が激しくて看護婦のつける温度表には随分激しい山がたが描かれて居るので彼女と両親は夜も寝ないで心配を仕つづけて来ました。 大柄だと云ってもまだやっと満七つと幾月と云う体なのですものそこへ三つも氷嚢をあてて胸に大きな湿布を巻き・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・そしていよいよ事務所まで買いかけたことがわかった時、大柄なずんぐりな二十の息子であるバルザックは父親と大論判をはじめた。バルザックはどうしても文学をやるのだと云って「大声に泣き叫ぶ」騒動を演じた。 母のとりなし、特に妹のロオルの支持で、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 手当り次第傍の湯呑の中に入れる。「おや、あの壁にもついている――そう云えば……君や、一寸おいで」 大柄な、手など薄赤くさっぱりした看護婦が、「何か御用ですか、私が致しましょう」と云った。「いいえね、さっき手水に行っ・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫