・・・ドイツの知識人たちは、ナチスの運動がその背後にどんな大きいドイツの軍国主義者と資本家の大群をひかえているかということを洞察せず、馬鹿にしていたために、祖国とその文化とをナチスに蹂躙されつくした。 一九二〇年代のドイツは、左翼が活躍し、ド・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・若い女性たちは自分もその一人としてきょうの人生を歩いている女性の大群の道幅というものを見きわめはじめてきた。あの道へはどういう過程で入ってゆくか、またこの道はどういう方向へ進むものか、そこを見きわめようとするまじめな眼ざしが見えてきている。・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 前日大群衆に揉みぬかれた都会モスクワと人とは、くたびれながらも、気は軽い。そう云う風だ。 店はしまっている。 物売も出ていない。 午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通りは歩道一杯の人だ。みると芸術座の入口・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・な官吏、軍人、実業家達及び彼等と膝を交えて大人並に腹のある遊興も出来る一群の作家に指導される文化水準の低い、何故浪花節が悪趣味なのかも分らない、偉い官吏、軍人、実業家ではない人間の大群として考えられているのである。 作家は大衆の心を語る・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・その勾配を、小旗握った宿屋の番頭に引率された善男善女の大群が、連綿として登り、下りしていて、左右の土産物屋は浅草の仲見世のようである。葡萄を売っている。林檎を売っている。赤や黄色で刷った絵草紙、タオル、木の盆、乾蕎麦や数珠を売っている。門を・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・うしろからは、飢餓という獣の大群が、刻々迫って来ます。生きるために、どうしてもこの河一つは越さなければならない。 こういう危急の時に、爪先も濡らさず岸に立って、諸君、まず、橋を作る材木を出し給え。マァ、何の彼のいわず、材木だけは、ともか・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・丁度山々では紅葉が赤らむのでね、善光寺詣りの団体くずれが、大群をなして温泉めぐりをやり、渋からこの上林へとくり上って来る。それらの連中はこの家から少し上の上林ホテルというのにつめこまれるが、この家では二晩おきに、二晩つづいて、奇声を発する変・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 今日は既にプロレタリア文学の領域においても、ブルジョア・インテリゲンツィア作家たちの間にあっても、その一時的後退からの立ち直りの徴が顕著に認められて来ているが、オノレ・ド・バルザックの作品の大群は抑々以上のような雰囲気の裡に甦らされて・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、一握りの人間が、決して自分の靴の底皮をぬらすことなくともかく生きていなければならない人々の大群を不幸に追いこんでいる現代の戦争というものの本質について深く知っていた。 ハーシーの「アダノの鐘」にもこの感情が主調をなしている。ジョ・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・の広場に飾られてるような大骨板張の大労働者像、一九三〇年のメーデーに赤い広場に飾られた大群像、または示威運動の張りものみたいな非写実的な、応用美術の方が手に入ってる。日本で労働運動はそのような祝祭の張りものを求める状態にはまだなっていない。・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
出典:青空文庫