・・・みなば鶯や柳のうしろ藪の前 芭蕉梅が香にのっと日の出る山路かな 同古寺の桃に米蹈む男かな 同時鳥大竹藪を漏る月夜 同さゝれ蟹足はひ上る清水かな 同荒海や佐渡に横ふ天の川 同猪も共に吹かるゝ野分かな・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・目にあてて空にすかして見ると、もう焔はなく、天の川が奇麗にすきとおっています。目からはなすと、またちらりちらり美しい火が燃えだします。 ホモイはそっと玉をささげて、おうちへはいりました。そしてすぐお父さんに見せました。すると兎のお父さん・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・「ですからもしもこの天の川がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利の粒にもあたるわけです。またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。つまりその星はみな、乳のなかにまるで細・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・樺には新らしい柔らかな葉がいっぱいについていいかおりがそこら中いっぱい、空にはもう天の川がしらしらと渡り星はいちめんふるえたりゆれたり灯ったり消えたりしていました。 その下を狐が詩集をもって遊びに行ったのでした。仕立おろしの紺の背広を着・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん、まっ黒でしたがそれでも林の中に入って行きますと、その脚の長い松の木の高い梢が、一本一本空の天の川や、星座にすかし出されて見えていました。 松かさだか鳥だかわからない黒いものがたくさんその梢にと・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
双子の星 一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・そしてもう一度、東から今のぼった天の川の向う岸の鷲の星に叫びました。「東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。」 鷲は大風に云いました。「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。星・・・ 宮沢賢治 「よだかの星」
・・・李茂はもうぐっすり眠っていた。天の川はすでに低くなっていたからである。晩香玉の香の高いひっそりとした暗やみの中で、かすかに「女房や」と云いかけるのと「聞きたくもない。わたしはあんたの女房じゃないよ」という答えが聞かれた。 こういう風趣の・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・の心や置炬燵うき我をさびしがらせよかんこ鳥 雄大、優婉な趣は、辛崎の松は花より朧にて五月雨にかくれぬものや瀬田の橋暑き日を海にいれたり最上川荒海や佐渡によこたふ天の河 そして「枯枝に」があ・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ そよりともしない黒地の闇の上には、右から左へ薄白く夢のような天の河が流れています。光った藁のような金星銀星その他無数の星屑が緑や青に閃きあっている中程に、山の峰や深い谿の有様を唐草模様のように彫り出した月が、鈍く光りを吸う鏡のように浮・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫