・・・「あなたは天主教を弘めに来ていますね、――」 老人は静かに話し出した。「それも悪い事ではないかも知れません。しかし泥烏須もこの国へ来ては、きっと最後には負けてしまいますよ。」「泥烏須は全能の御主だから、泥烏須に、――」 ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・現代の日本は暫く措いても、十四世紀の後半において、日本の西南部は、大抵天主教を奉じていた。デルブロオのビブリオテエク・オリアンタアルを見ると、「さまよえる猶太人」は、十六世紀の初期に当って、ファディラの率いるアラビアの騎兵が、エルヴァンの市・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・天主閣はその名の示すがごとく、天主教の渡来とともに、はるばる南蛮から輸入された西洋築城術の産物であるが、自分たちの祖先の驚くべき同化力は、ほとんど何人もこれに対してエキゾティックな興味を感じえないまでに、その屋根と壁とをことごとく日本化し去・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・第一鉅神 云輅斉布児 自謂其智与天主等 天主怒而貶入地獄 輅斉雖入地獄受苦 而一半魂神作魔鬼遊行世間 退人善念―左闢第三闢裂性中艾儒略荅許大受語―一 破提宇子と云う天主教を弁難した書物のある事は、知ってい・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・二十二日の晩宿の主婦から、天主教の幼稚園で降誕祭式があるから行かぬかと誘われたので行って見ました。主婦と娘と、家事の見習いかたがた手伝いに来ているというスチューバー嬢と四人で行きました。狭い室におもちゃのような小さい低い机と椅子を並べて、そ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・近代の歴史の担当者として現れたブルジョアジーは、王権を否定して市民の権利を確立すると共に、ルーテルを先頭に立てて、法王に統率され経済的政治的に専制勢力の柱である天主教の仕組を否定した。そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫