・・・ 天佑と名医の技術によって幸いに子供は無事に回復した。骨の折れたのも完全に元のとおりになるのだそうである。 鎖骨というものはこういう場合に折れるためにできているのだそうである。これが、いわば安全弁のような役目をして気持ちよく折れてく・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・「なに、大丈夫だ。天祐があるんだから」「どこに」「どこにでもあるさ。意思のある所には天祐がごろごろしているものだ」「どうも君は自信家だ。剛健党になるかと思うと、天祐派になる。この次ぎには天誅組にでもなって筑波山へ立て籠るつも・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・首相は朝鮮での事件を、「天佑である」とよろこんでいる。そのこころに通じるものがあるようで、火野葦平、林房雄、今日出海、上田広、岩田豊雄など今回戦争協力による追放から解除された諸氏に共通な感懐でもあろうか。 東京新聞にのった火野の文章のど・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・忌日にさきだって、紫野大徳寺の天祐和尚が京都から下向する。年忌の営みは晴れ晴れしいものになるらしく、一箇月ばかり前から、熊本の城下は準備に忙しかった。 いよいよ当日になった。うららかな日和で、霊屋のそばは桜の盛りである。向陽院の周囲には・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫