・・・全的人間性の登場の可能に対する観念そのものさえ蹂躙しつつ、階級社会の時々刻々の現実生活はどのようにわれわれをゆがめ、才能や天分を枯渇せしめているかという憤ろしい今日の実際を、ローゼンタールの生活と文学における性格の研究の論文はくっきりと抉り・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そしてこういう表現をとる生活への心配りが、やはりこの天分ゆたかな婦人画家の努力の一面となって、今日あらしめているところに女の生活への伝統の力がうかがわれる。 計画された意思のつよさという点で、藤村を何となし思いくらべさせる。・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・よい天分、然し芸で立つ気はない。男、弟子の一人ですいて居るらしいのを知りもちかけ、金を出させようとす。 男、心のことと思う。ソゴし、駄目。 友達であった女、神戸に鳥屋をして居、それを、男のために売りたい。相談して岡田をひっかけ買わす・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ メイエルホリドの天分の豊かなこと。それはソヴェトの観衆が十分知りぬいているどころか、世界に知られている事実。常に研究的で、新しい試みに対して大胆であること。それも、例えば一九二一年から二八、九年までの仕事ぶりを見れば分る。メイエルホリ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・人間が、或る場合自己の天分によって却って身を過つことがあるように、一国にしても、或る時には、その是とすべき伝統的習俗によって、却って真実な人間的生活に破綻を生ぜしめることが多くあります。それ故、徒に新奇を競うて、外国人の営む生活の形骸を真似・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・何故、左様な天分を与えて生んで呉れた! 涙が、押えても流れた。母と自分の為、一生の用意の為、自分は、心のあらいざらいの熱誠をこめて、話した。 母も泣かれる。 私なんかは、如何う云われようが、何と思われようがお前の芸術さえ、崇高な・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ゲーテは女との結合、離別に際していつも自身の天才に対する、或る点では坊ちゃんらしい自尊自衛から自由になり得ていないのであるが、ゴーリキイは自分の才能と女の天分との比較裁量などということはしていない。一人の女としてその女なりの生活を認め、同時・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・――お前にどんな天分があるか。お前の自信が虫のよいうぬぼれでない証拠はどこにあるのだ。 そこで私は考える。――私には物に食い入るかなりに鋭い眼がある。一つの人格、一つの世相、一つの戦い、その秘められた核を私は一本の針で突き刺して見せる。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ 私はこの種の僧侶のうち、特に天分の豊かであった少数のものが、単に「受くる者」「味わう者」である事に満足せずして、進んで「与うる者」「作る者」となったことを、少しの不自然もなく想像し得ると思う。 芸術鑑賞と宗教的帰依とが一つであった・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫