・・・ルベリエが海王星を発見したのも、天王星の運動を精細に知りその運動の説明しがたき小不規則を怪しんだからの事である。近年力学物理学を根底より改造する気運を生じたいわゆる相対率の原理のごときも、もし電子の運動に関する実験上の事実が知られなかったな・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・物理学者が尺度の比較をする時には寒暖計を八かましく云っても、天王星やシリアスの位置を帳面につける必要はまだない。もしもそうでなかったらたとえ一メートルの標準尺度をカドミウム線の波長と比較しようとしても光の波長自身がどうして頼みになるであろう・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 科学的常識というのは、何も、天王星の距離を暗記していたり、ヴィタミンの色々な種類を心得ていたりするだけではないだろうと思う。もう少し手近なところに活きて働くべき、判断の標準になるべきものでなければなるまいと思う。 勿論、常識の判断・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
出典:青空文庫