・・・静と立ってると、天窓がふらふら、おしつけられるような、しめつけられるような、犇々と重いものでおされるような、切ない、堪らない気がして、もはや! 横に倒れようかと思った。 処へ、荷車が一台、前方から押寄せるが如くに動いて、来たのは頬被をし・・・ 泉鏡花 「星あかり」
・・・がらくた壇上に張交ぜの二枚屏風、ずんどの銅の花瓶に、からびたコスモスを投込んで、新式な家庭を見せると、隣の同じ道具屋の亭主は、炬燵櫓に、ちょんと乗って、胡坐を小さく、風除けに、葛籠を押立てて、天窓から、その尻まですっぽりと安置に及んで、秘仏・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・頼母しがるような方でなくっちゃ可けますまい、それですのにちょいちょいお見えなさいまする、どのお客様も、お止し遊ばせば可いのに、お妖怪と云えば先方で怖がります、田舎の意気地無しばかり、俺は蟒蛇に呑まれて天窓が兀げたから湯治に来たの、狐に蚯蚓を・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・その懊悩さに堪えざれば、手を以て去れと命ずれど、いっかな鼻は引込まさぬより、老媼はじれてやっきとなり、手にしたる針の尖を鼻の天窓に突立てぬ。 あわれ乞食僧は留を刺されて、「痛し。」と身体を反返り、涎をなすりて逸物を撫廻し撫廻し、ほうほう・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・ と、満右衛門の天窓の上で咳などをして、そして、言うことには、「これで頼み方がお判りでしょうがな」「――はア」 満右衛門は真赧になって、畳にしがみついていた。「――ははは……。頼み方を教えて、大切な金を貸すというのは、世・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ この二つの入口だけであと天窓ほかない此家の内部は屋外からのぞいた明るい眼では、なかなか見られないほど暗く陰気である。 野菜の「すえ」た臭いと、屋根の梁の鶏の巣から来る臭いが入りまじって気味悪く鼻をつく。 暗さになれてよく見ると・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫