・・・それが皺曲や断層やまた地下熔岩の迸出によって生じた脈状あるいは塊状の夾雑物によって複雑な構造物を形成している。その構造の如何なる部分に如何なる移動が起ったかが第一義的の問題である。従ってその地質的変動によって生じた地震の波が如何なる波動であ・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・私小説の問題は「もっと純粋な主観的表現に達するためには、いかにして夾雑物を払いすてるかということだけである」とした。「私小説」というものが近代日本文学にあっては、現在志賀直哉氏の文学にその完成を示しているところの純粋小説であるとし、日本・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 大体、文化史というものは、何となし私たちに親密に感じられてとりつきやすいと同時に、その文化についての述作の中には様々の夾雑的要素がまぎれ込んで来やすい危険がある。文化の観念は、ウエルズの所謂青春的現代の紛糾にあって必ずしもいつも明徹で・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・いること、すなわち夾雑観念のないそのものとしての境地にふれている純一を感じ、対象と作者の感覚の「間に髪を入れざる」印象、本性たがわじの芸術を心に銘じられるのだと思う。芭蕉というと枯淡と言葉を合わせ、一笠一杖の人生行脚の姿を感傷的に描くのが俗・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・著者の文章は、なお時々夾雑物を感じさせるとはいえ、著しくこの理想に近づいて来たように思う。これは著者の人格的生活における近来の進境を物語るものにほかならぬ。そうしてそのことを我々はこの書の内容において具体的に見いだすことができるのである。・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫