・・・と題した二節の論旨を読むと、正直のところ、僕は自分の申し分が奇矯に過ぎていたのを感ずる。 しかしながら僕はもう一度自分自身の心持ちを考えてみたい。僕が即今あらん限りの物を抛って、無一文の無産者たる境遇に身を置いたとしても、なお僕には非常・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 私はことさらに奇矯な言を弄して、志賀直哉の文学を否定しようというのではない。私は志賀直哉の新しさも、その禀質も、小説の気品を美術品の如く観賞し得る高さにまで引きあげた努力も、口語文で成し得る簡潔な文章の一つの見本として、素人にも文章勉・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・もっとも多くの場合にこのような独創力と耐久力を併有しているような種類の人間は、同時にその性状が奇矯で頑強である場合が多いから、学者と言っても同じく人間であるところの同学や先輩の感情を害することが多いという事実も争われないのである。そういう風・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかし単に説の奇矯であり、常識的に考えてありそうもないというだけの理由から、この説を初めから問題ともしないでいたずらに嘲笑の的にしようとする人のみ多い事にも疑いをいだかないわけには行かなかった。少なくも東欧の一部と極東日本との間に万一存在し・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・と言った田舎のある老人の奇矯な言葉が思い出される。 何番という番号のついた売り場に妻子をつれて買い物に来ている人が幾組もある。細君の品物を選り分ける顔つきや挙動や、それを黙って見ている主人の表情はさまざまである。いろいろな家庭の一面がこ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・他人と比較されることのない風変りな日常習慣のうちで、人柄のある聰明さにかかわらず奇矯な癖をもっている天皇の動作、きいた風な宮のとりなし。かしこまってそこに連っている歌人・文学者たち一人一人の経歴が文学史的に細叙されているにつけ、つつしんでい・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・スーザンが、大理石にむかってニューヨークの街に溢れる群集の中からニグロの女をとらえて彫り、北国の老婆をとらえて彫って、尨大な独特なものをつくってゆくとき、ブレークは、軽い土の塑像を、才走って、奇矯にこしらえてゆく。 スーザンが仕事に規則・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・それが奇矯ではあるが純潔なろうとする意志によっていることや、アメリカほど遠い海を踰えてしまわなければ、そしてやがてはその大きく強い情熱が理が非でも擒にしてしまう神だの地獄だのをつかまえておかなくてはならなかった内心の苦悩を、父と母とは同情を・・・ 宮本百合子 「本棚」
出典:青空文庫