・・・唯この上は女子社会の奮発勉強と文明学士の応援とを以て反正の道に進む可きのみ。事は新発明新工夫に非ず。成功の時機正に熟するものなり。一 言葉を慎みて多すべからず。仮にも人を誹り偽を言べからず。人の謗を聞ことあらば心に納て人に伝へ語・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・もとよりその論者中には、多年の苦学勉強をもって、内に知識を蔵め、広く世上の形勢を察して、大いに奮発する者なきに非ず。 我が輩、その人を知らざるに非ずといえども、概してこれを評すれば、今の民権論の特にかしましきは、とくに不学者流の多きがゆ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・然りといえども、物事には必ずかぎりある者にて、たとい貧民が奮発するも、子を教育するがために、事実、家内の飢寒を忍ぶべからず。すなわち飢寒と教育と相対して、この界をば決して踰ゆべからざるものなり。 ゆえに今、文部省より定めたる小学校の学齢・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 物におどおどし、恥しいほど決断力も、奮発心も失せてしまった。 貧と不具にせめさいなまれて、栄蔵の神経は次第に鈍く、只悲しみばかりを多く感じる様になった。 今度お君を自分の妹の家へやるについても、栄蔵の頭には、これぞと云った父親・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・大きくして、レンズはツァイスのウロ・プンクタールというの。これは赤外線、紫外線を吸収して人工光線の下で仕事をするのに大変疲れないのだそうです。大奮発です。でも眼玉ですものね。そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・二月十三日は私の誕生日なので、私の道伴れは奮発して平土間の第八列目を買った。 上靴の中で足が痛いほど寒かった。街はますます白く、ますます平べったかった。モスクワ労働新聞社の高い窓の一つに午後三時の西日がさして、火のように硝子を燃やした。・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・大奮発で五円の草履を買う。五円の草履は贅沢品ではない実用品だけれど、その五円の草履の実質は、どんなにもちのよいしっかりしたものだろうか。二十円以上の草履をこしらえてはいけなくなったために、草履屋は五円の品物を前よりはましにこしらえるというよ・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ 第二日 多忙な永山氏を煩すことだから、大奮発で七時起床。短時間の滞在だから永山氏に大体観るべきところの教示を受けたいと、昨日電話して置いたのだ。紹介状には、私共二人の名が連ねてある。ところが、Y、昨晩床に入る・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・若い者の奮発心を起すにはこの上ない事ではあるが、一文なしで上京して大臣になった人などは、大抵維新の時にそのきわどい運命の瀬に立った人ばかりである。義務教育をすましたばかりの若者の頭には時代と云う考えがない。すっかり秩序的になった今の世の中を・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ひとつ奮発してくれんか?」「伯母やん。伯母やんって、損のいくことやったら、何んでもわしににじりつけるのやな。わしとこはもう、蒲団出したやないか。お前とこしてやれ。」「そうかて、本当に勘が何もかも引き受けよったんやないか。そのくせ組へ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫