・・・ それが人間としての本当の向上というもので、ついには人間をこえたみ仏の位にまで達することができるので、そうなれば女人成仏の本懐をとげるわけである。そしてみ仏になるといっても、この人間のそのままであるところにさとりの極意があるのだ。 ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・曰く、「京管領細川右京太夫政元は四十歳の比まで女人禁制にて、魔法飯綱の法愛宕の法を行ひ、さながら出家の如く、山伏の如し、或時は経を読み、陀羅尼をへんしければ、見る人身の毛もよだちける。されば御家相続の子無くして、御内、外様の面、色諫め申しけ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・なぞという挨拶にはじまる女人の実体を活写し得ても、なんの感激も有難さも覚えないのだから、仕方がないのである。私は、ひとりになっても、やはり、観念の女を描いてゆくだろう。五尺七寸の毛むくじゃらの男が、大汗かいて、念写する女性であるから笑い上戸・・・ 太宰治 「女人創造」
・・・精神の女人を、宗教でさえある女人をも、肉体から制御し得る、という悪魔の囁きは、しばしば男を白痴にする。そのころの東京には、モナ・リザをはだかにしてみたり、政岡の亭主について考えてみたり、ジャンヌ・ダアクや一葉など、すべてを女体として扱う疲れ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ また私は、眠りの中の夢に於いて、こがれる女人から、実は、というそのひとの本心を聞いた。そうして私は、眠りから覚めても、やはり、それを私の現実として信じているのである。 夢想家。 そのような、私のような人間は、夢想家と呼ばれ、あ・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・ 女は頸に懸けたる金の鎖を解いて男に与えて「ただ束の間を垣間見んとの願なり。女人の頼み引き受けぬ君はつれなし」と云う。 男は鎖りを指の先に巻きつけて思案の体である。かいつぶりはふいと沈む。ややありていう「牢守りは牢の掟を破りがたし。・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・一九三〇年の暮から一九三二年いっぱいに書かれたソヴェト紹介の文章は、『女人芸術』『戦旗』『ナップ』をはじめとして『毎日新聞』『改造』そのほか記憶することが困難なほどの数にのぼった。 その数多いソヴェトに関する執筆のうち、単行本としてまと・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・自ら生得の痴愚にあき人生の疲れを予感した末世の女人にはお身の歓びは 分ち与えられないのだろうか真珠母の船にのりアポロンの前駆で生を双手に迎えた幸運のアフロディテ *ああ、劇しい嵐。よい・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ その時間からは、「女人哀愁」というのとニュースとが見られるわけである。私は特別にその映画を目ざして行ったのではなかったが、観てもいいという心持で、列の最後の方にまわって傘をさしたまま往来に立っていた。「ちょいと、まだ大丈夫よ! ホ・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・そして、其の目前の女性は、宇宙の女人其ものの表象であるかの如く、彼の脳裡から悉く他の女性の型を追い払って仕舞うのでございます。 C先生。 斯様にして、彼の魂の活気と悦びを新たに甦らせた女性美は、彼の口から・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫