・・・ すべての婦人が、きびしい現実を生きとおして来た今、これまでの女流文学的空気は、美しさの魅力もないし、人間真実に訴える力ももっていない。今日から明日への文学は、人生の根幹へ手を入れて、それをつかみ出して見直すだけの、社会的理解力を必要と・・・ 宮本百合子 「婦人の生活と文学」
・・・紫式部というのは、女官としての宮廷の名です。女流文学の隆盛期と云われた王朝時代、一般の婦人の社会的な地位は、不安で低いものでした。その中から、こういう小説を書いた。そして紫式部が書いた小説にはなかなか立派な描写があるし、同時に彼女の生きた時・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
問「男の作家に女性が書けるか書けないかというのは小説が書けるか書けないかというのと同じ愚問ですが、書けているとか、書けていないということはいえると思います。で女流作家の立場から男の作家の女性描写を検討していただきたいのです」・・・ 宮本百合子 「不満と希望」
・・・ それは、この間うちつづけて読売新聞紙に載っていた「処女航路を行く女流作家」という紹介を見てもわかる。「処女航路を行く女流作家」というのはよんで字の通り商業的なジャーナリズムが自身の立場から新進の婦人作家を並べて、短い自己紹介の文章・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・例えば十九世紀の後半、全欧州を通じてもっとも著名な女流数学者であったソーニァ・コヴァレフスカヤは、マリアより十歳の年上であった。そしてロシアの進歩的な若い娘が旧式な親たちの望まない知識と社会的自由を手に入れる特別な方法として選んだ名義だけの・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・その頃女流の作家では、田村俊子、水野仙子、素木しづ子、などという人達が盛んに書いていて、そのうちでも素木さんは、どっしりした大きなものを持った人ではなかったけれども、いかにも女らしい繊細な感情と、異常に鋭い神経との、独特の境地を持った作家で・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・美妙のどったんばったん的措辞も幾分その余波にや○雲中語に、紫琴という女流作家の名が見える。誰であろう。よい作品はなかったらしいが。○鷸掻、三人冗語、雲中語をとびとびによみ、明治文学史のよいのが一日も早く出ることを希う。・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
・・・ 清少納言という人は当時の女流の文筆家の中でも才気煥発な、直感の鋭い才媛であったことは枕草子のあらゆる描写の鮮明さ、独自な着眼点などで誰しも肯うところだと思う。枕草子の散文として独特な形そのものも清少納言の刹那に鋭く働いた感覚が反映・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・とこの王朝女流作家の輝やかしい文学の中には女性としての世俗的な半面や弱気のあらわれていることをも認め、それをも含めて芸術の全面を暖く評価している。古典を理解するそのような著者の態度からも、与えられるところは少くあるまいと思う。 古典・・・ 宮本百合子 「若い世代のための日本古典研究」
・・・美術史に遺っている著名な女流画家――ロザ・ボンヌールは何を描いた? 一生、動物を描き通し、傑作は馬だ。マリー・ローランサンは、彼女の幻想の花や少女を独特の灰色、白、桃色、黒緑で、粋に病的に描く。二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫