・・・ 第一、今の今まで女王だとか、お前のおかげだとか、わいわい騒いでいた者達が、話せ話せと云って身の上話をさせながら、話し手が我と泣き倒れる程血の出るような事実を語っているのに、歎声一つ発しない冷淡さが事実あるだろうか。 自分達が云うだ・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・世なれた恥しげのうせた様子で銀杏返しにゆるく結って瀧縞御召に衿をかけたのを着て白博多をしめた様子は、その年に見る人はなく、その小さな国の女王としても又幾十人の子分をあごで動かす男達の姐御としても似合わしいものだった。 壁の地獄の絵の中の・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・ あっちの根元に立派なホールがあって、集った人達が笛を吹いたり※イオリンを鳴らして居るかと思うと、すぐここの根元では、すばらしい天蓋のある乗物にのって美くしい女王がそそり立った城門から並木道へさしかかって居る。 あー、あの可愛い女の・・・ 宮本百合子 「草の根元」
・・・それで様子を見に、二十九日でしたか、雪の中を林町へ行く前、グレタ・ガルボがクリスチナ女王という写真をとり、大変立派だという評判はもうずっときいていたが、机にかじりついていて、もう昭和館とかでいねちゃんが見たときいたので、私はバカネ、それが戸・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の誰彼が特殊な事情でそれぞれ女のする家のことをもよくするということで、すべての男性というものを気よくその中へ帰納してしまい、最後に到って飄逸たらんと試みられたものか茶気満々な文体で「たしかに女は家庭の女王である。さればこそ」「女王は女王らし・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 厨川白村氏によって「女王」の尊称をたてまつられ、又この名にふさわしい権力を以て生きて居るこちらの婦人は、私の眼に意味深いものとうつりました。 C先生、総て事物を客観的な立場から見て、物を考えますれば、婦人の常識が豊かな方が、貧弱な・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・「スペードの女王」「サドコ」はこわくないからね。 ――ふーむ。そんな古典をやってるところもあるのかな。古典をすてた訳じゃないんだな。 ――ソヴェトの芝居は大体三種類に分けられると思う。第一群は、この第一国立オペラ舞踊劇場。スタニスラ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 和久屋ってね、 昔お女郎屋をして居たんだって、 作りなんか、かなり違いましたけど磨きの行き届いた広い階子や女王のきゃしゃな遊芸の上手なのなんかはどことなし他所と違ってました。 雨なんか降ると主婦と娘の、琴と胡弓の合奏をきか・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ゆる種類の伝説と童話とが酵母となって、彼女の生活のどこの隅々にまでも、渾然と漲りわたっていた果もない夢幻的空想は、今ようようその気まぐれな精力と、奇怪な光彩とを失い、小さい宝杖を持ち宝冠を戴いた王様や女王様、箒に乗って月に飛ぶ鼻まがりの魔法・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 犯しがたい威厳のあるツンとした女王の様な態度を芸術はもって居なければならない。オッチョコチョイにそれを大切にする人の群はそのひろい陰に欠点をかくし見っともないところをかくしてはしゃぎ廻って居ると私は思う。 真の芸術を! 私は叫・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫