・・・丁度鎖に繋がれた奴隷のもっと太い鎖を欲しがるように。 奴隷 奴隷廃止と云うことは唯奴隷たる自意識を廃止すると云うことである。我我の社会は奴隷なしには一日も安全を保し難いらしい。現にあのプラトオンの共和国さえ、奴隷の存在を・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・同時に又奴隷に、暴君に、力のない利己主義者に変り出した。…… 前のホテルに帰ったのはもうかれこれ十時だった。ずっと長い途を歩いて来た僕は僕の部屋へ帰る力を失い、太い丸太の火を燃やした炉の前の椅子に腰をおろした。それから僕の計画していた長・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・が、彼女等は何といっても彼の精神的奴隷だった。ソロモンは彼女等を愛撫する時でも、ひそかに彼女等を軽蔑していた。しかしシバの女王だけは時には反って彼自身を彼女の奴隷にしかねなかった。 ソロモンは彼女の奴隷になることを恐れていたのに違いなか・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・じつにかの日本のすべての女子が、明治新社会の形成をまったく男子の手に委ねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・に粘す 血雨声無く紅巾に沁む 命薄く刀下の鬼となるを甘んずるも 情は深くして豈意中の人を忘れん 玉蕭幸ひに同名字あつて 当年未了の因を補ひ得たり 犬川荘助忠胆義肝匹儔稀なり 誰か知らん奴隷それ名流なるを 蕩郎枉げて贈る同心の・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・人間が、人間を奴隷とし、自欲のためには、他の苦艱をも意としない、そのことが人道にもとるにもかゝわらず。不問にされることも知っている。そして、この社会は、民衆が喜んだり、楽しんだりすることよりは、一層、苦しんだり、悲しんだりしているところであ・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・キリスト教の精神が死んでいなかったならば、彼等は賃金制度によって人間が奴隷化され、自由競争によって不平等不公平を来たしたこの階級を、むしろ当然のことのように見なし、他を虐げて怪しまない今日の社会制度に対して黙っていられるわけがない。彼等の称・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・女は、永久に、男の奴隷たるに甘んぜずとする点は、たしかに、女の自覚を意味し、反抗をも意味したけれど、家出した女はどうなったか? やはり、同じような醜汚な生活を他の場処でしているに過ぎなかった。 すべての女性は、経済的に独立しなければなら・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・彼等のあるものは、まだ奴隷的階級にあるといっていゝものも少くなかった。そうしたことに考え至らずして、これまでの作家は、田園を詩的に取扱ったものが多かった。そして、自然の生活に帰れとか、土の文学とか、いろ/\に名づけていたが、畢竟、ブルジョア・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・「二人は忽ち恋の奴隷となって了ったのです。僕はその時初めて恋の楽しさと哀しさとを知りました、二月ばかりというものは全で夢のように過ぎましたが、その中の出来事の一二お安価ない幕を談すと先ずこんなこともありましたっケ、「或日午後五時頃か・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
出典:青空文庫