・・・蛇笏君の書は予想したように如何にも俊爽の風を帯びている。成程これでは小児などに「いやに傲慢な男です」と悪口を云われることもあるかも知れない。僕は蛇笏君の手紙を前に頼もしい感じを新たにした。春雨の中や雪おく甲斐の山 これは僕の近作であ・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・色彩とか空気とか云うものは、如何にも鮮明に如何にも清新に描けています。この点だけ切り離して云えば、現在の文壇で幾人も久米の右へ出るものはないでしょう。 勿論田舎者らしい所にも、善い点がないと云うのではありません。いや、寧ろ久米のフォルト・・・ 芥川竜之介 「久米正雄氏の事」
・・・仁右衛門の軽い気分にはその顔が如何にもおかしかったので、彼れは起き上りながら声を立てて笑おうとした。そして自分が馬力の上にいて自分の小屋の前に来ている事に気がついた。小屋の前には帳場も佐藤も組長の某もいた。それはこの小屋の前では見慣れない光・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 取扱いが如何にも気長で、「金額は何ほどですか。差出人は誰でありますか。貴下が御当人なのですか。」 などと間伸のした、しかも際立って耳につく東京の調子で行る、……その本人は、受取口から見た処、二十四、五の青年で、羽織は着ずに、小・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・れば著書などあるものであったらそれは必ず商買茶人俗茶人の素人おどしと見て差支ない、原来趣味多き人には著述などないが当前であるかも知れぬ、芭蕉蕪村などあれだけの人でも殆ど著述がない、書物など書いた人は、如何にも物の解った様に、うまいことをいう・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・敵塁の速射砲を発するぽとぽと、ぽとぽとと云う響きが聴えたのは、如何にも怖いものや。再び立ちあがった時、僕はやられた。十四箇所の貫通創を受けた。『軍曹どの、やられました!』『砲弾か小銃弾か?』『穴は大きい』『じゃア、後方にさが・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・伏見人形風の彩色の上からニスを塗ったのが如何にも生々しくて、椿岳の作としては余り感服出来ないものである。が、椿岳の奇名が鳴っていたから、椿岳の作といえば何でも風流がってこの人形もまた相応に評判されたもんだ。今でも時偶は残っていて、先年の椿岳・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・そしてこれから先き生きているなら、どんなにして生きていられるだろうかと想像して見ると、その生活状態の目の前に建設せられて来たのが、如何にもこれまでとは違った形をしているので、女房はそれを見ておののき恐れた。譬えば移住民が船に乗って故郷の港を・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・それに学問がないから虐めることが出来ないなどというのは、如何にも可怪しな言葉である。私は何も博士の家庭に立入って批評しようとするものではないけれども、若しこれが本当の母であったならば、又本当の母でなくとも愛というものがあったならば、如何に博・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・彼等はそれぞれ、おっさん、鯨や、とか、どじょうにしてくれとか粋な声で注文して、運ばれて来るのを寿司詰の中で小さくなりながら如何にも神妙な顔をして箸を構えて、待っているのである。何気なくふと暖簾の向うを通る女の足を見たりしているが、汁が来ると・・・ 織田作之助 「大阪発見」
出典:青空文庫