・・・内心如夜叉の譬通りです。第一あなたがたの涙の前には、誰でも意気地がなくなってしまう。あなたの涙などは凄いものですよ。 小野の小町 嘘です。嘘です。あなたはわたしの涙などに動かされたことはありません。 使 第二にあなたがたは肌身さえ任・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・外面如菩薩内心如夜叉などいう文句は耳にたこのできるほど聞かされまして、なんでも若い女と見たら鬼か蛇のように思うがよい、親切らしいことを女が言うのは皆な欺ますので、うかとその口に乗ろうものならすぐ大難に罹りますぞよというのが母の口癖でありまし・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・犬は、私にそのような、外面如菩薩、内心如夜叉的の奸佞の害心があるとも知らず、どこまでもついてくる。練兵場をぐるりと一廻りして、私はやはり犬に慕われながら帰途についた。家へ帰りつくまでには、背後の犬もどこかへ雲散霧消しているのが、これまでの、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・そう言う私だとて病人づらをして、世評などは、と涼しげにいやいやをして見せながらも、内心如夜叉、敵を論破するためには私立探偵を十円くらいでたのんで来て、その論敵の氏と育ちと学問と素行と病気と失敗とを赤裸々に洗わせ、それを参考にしてそろそろとお・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫