・・・しかしこのシガーの競技は可能であるのみならず、どこかに実にのんびりした超時代的の妙味があるようである。ただこの競技の審査官はいかにも御苦労千万の次第である。だれかしかるべき文学者がこの競技の光景を描いたものがあれば読んでみたいものである。・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・に通ずるところに妙味がないとは言われない。 またこの「毛唐」がギリシアの「海の化けもの」ktos に通じ、「けだもの」、「気疎い」にも縁がなくはない。 話は変わるが二三日前若い人たちと夕食をくったとき「スキ焼き」の語原だと言って・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ むきになって理屈を言ってる鼻の先へもって来てポペンポペンとやられると、あらゆる論理や哲学などが一ぺんに吹き散らされるところに妙味があったようにも思われる。 六 干支の効用 去年が「甲戌」すなわち「木の兄の犬・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・これらの矛盾撞着によって三段論法では説けない道理を解説しているところにこの書の妙味があるであろう。 第八十段にディレッタンティズムに対する箴言がある。「人ごとに、我が身にうとき事をのみぞこのめる」云々の条は、まことに自分のような浮気もの・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・しかしそこにまたこの時計の妙味もあるのである。譬喩を引けば浦島太郎が竜宮の一年はこの世界の十年に当たるというような空想や、五十年の人生を刹那に縮めて嘗め尽くすというような言葉の意味を、つまり「このエントロピーの時計で測った時の経過と普通の時・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・なんとなれば前句と付け句と合わせてはじめて一つの完結した心像を作ることが付け句の妙味であるからである。 連句は言わば潜在意識的象徴によって語られた詩の連鎖であって、ポオや仏国象徴派詩人の考えをいっそう徹底させたものとも見られないことはな・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・そうして、かのチャンバレーン氏やホワイマント氏がもう少しよく勉強してかからないうちは、いくら爪立ちしても手のとどかぬところに固有の妙味のあることも明らかになるであろうと思う。 二 連句と音楽 連句というものと、一・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・牛鍋の妙味は「鍋」という従来の古い形式の中に「牛肉」という新しい内容を収めさせた処にある。人力車は玩具のように小く、何処となく滑稽な形をなし最初から日本の生活に適当し調和するように発明されたものである。この二つはそのままの輸入でもなく無意味・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・ 戦争前の茶番がかった芝居には、それでも浅草という特種な雰囲気が漂っているものもたまには見られない事もなかったが、今ではそういう写実風の妙味は次第に失われて、脚色の波瀾と人物の活動とを主とする傾が早くも一つの類型をなしているようになった・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・古文古歌固より高尚にして妙味ある可しと雖も、之を弄ぶは唯是れ一種の行楽事にして、直に取て以て人生居家の実際に利用す可らず。之を喩えば音楽、茶の湯、挿花の風流を台所に試みて無益なるが如し。然かのみならず古文古歌の故事は往々浮華に流れて物理の思・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫