・・・ところが源三と小学からの仲好朋友であったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹同様の交情であったので、我が親かったものの甥でしかも我が娘の仲好しである源三が、始終履歴の汚れ臭い女に酷い目に合わされているのを見て同情に堪えずにいた上、ちょうど・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・六人ある姉妹の中で、私の子供らの母さんはその三番目にあたるが、まだそのほかにあの母さんの一番上の兄さんという人もあった。函館のお爺さんがこの七人の兄弟の実父にあたる。お爺さんは一代のうちに蔵をいくつも建てたような手堅い商人であったが、総領の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・三人姉妹を読みながらも、その三人の若い女の陰に、ほろにがく笑っているチエホフの顔を意識している。この鑑賞の仕方は、頭のよさであり、鋭さである。眼力、紙背を貫くというのだから、たいへんである。いい気なものである。鋭さとか、青白さとか、どんなに・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・ と聞かれたとき、さあ、桜の園、三人姉妹なんか、どうでしょう、とつつましく答えることができるようだったら、いいねえ、としんみり答えたことでした。 太宰治 「正直ノオト」
・・・に集録してあるから読んでもらいたい。姉妹芸術としての俳諧連句については昭和六年三月以後雑誌「渋柿」に連載した拙著論文【「連句雑俎」】を参照されたい。現在の論文は、これと「二枚折り」になる性質のものである。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 十五 乙女心三人姉妹 川端康成の原著は読んだことはないが、この映画の話の筋はきわめて単純なもので、ちょっとした刃傷事件もあるが、そういう部分はむしろはなはだ不出来でありまた話の結末もいっこう収まりがついていない・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・道太の姉や従姉妹や姪や、そんな人たちが、次ぎ次ぎににK市から来て、山へ登ってきていたが、部屋が暑苦しいのと、事務所の人たちに迷惑をかけるのを恐れて、彼はK市で少しほっとしようと思って降りてきた。「何しろ七月はばかに忙しい月で、すっかり頭・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・二 モオパッサンの短篇小説 Les Surs Rondoli(ロンドリ姉妹の初めに旅行の不愉快な事が書いてある。「……転地ほど無益なものはない。汽車で明す夜といえば動揺する睡眠に身体も頭も散々な目に逢う。動いて行く箱・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・後を顧みてかの薄紫の貴女及びその妹の事とその門構付の家を想像し、前を見てこの貧困なるしかし正直なる二人の姉妹とその未来の楽園と予期しつつある格子戸作りを想像して、両者の差違を趣味あるようにも感ずる。また貧富の懸隔はかように色気なき物かとも感・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・片っ端から母を異にする兄弟姉妹の間に、何かありはしないか? 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか? 人々は信ずる処を失ってしまった。滅茶苦茶であった。虚無時代であった。恐怖時代であった。 棍棒は、剣よりもピストルよりも怖れられ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫