・・・御糺明の喇叭さえ響き渡れば、「おん主、大いなる御威光、大いなる御威勢を以て天下り給い、土埃になりたる人々の色身を、もとの霊魂に併せてよみ返し給い、善人は天上の快楽を受け、また悪人は天狗と共に、地獄に堕ち」る事を信じている。殊に「御言葉の御聖・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・ですから、どんな難儀に遇っても、十字架の御威光を輝かせるためには、一歩も怯まずに進んで参りました。これは勿論私一人の、能くする所ではございません。皆天地の御主、あなたの御恵でございます。が、この日本に住んでいる内に、私はおいおい私の使命が、・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・とて、無色無形の実体にて、間に髪を入れず、天地いつくにも充満して在ませども、別して威光を顕し善人に楽を与え玉わんために「はらいそ」とて極楽世界を諸天の上に作り玉う。その始人間よりも前に、安助とて無量無数の天人を造り、いまだ尊体を顕し玉わず。・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・国家の権威も学問の威光もこれを遮り停めることはできないだろう。在来の生活様式がこの事実によってどれほどの混乱に陥ろうとも、それだといって、当然現わるべくして現われ出たこの事実をもみ消すことはもうできないだろう。 かつて河上肇氏とはじめて・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・いくら親だからとて、その子の体まで親の料簡次第にしようというは無理じゃねいか、まして男女間の事は親の威光でも強いられないものと、神代の昔から、百里隔てて立ち話のできる今日でも変らぬ自然の掟だ」「なによ、それが淫奔事でなけりゃ、それでもえ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・その頃はマダ葵の御紋の御威光が素晴らしい時だったから、町名主は御紋服を見ると周章てて土下座をして恭やしく敬礼した。毎年の元旦に玄関で平突張らせられた忌々しさの腹慰せが漸とこさと出来て、溜飲が下ったようなイイ気持がしたと嬉しがった。表面は円転・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・それですから小学校の教師さえも全くは覚束ないのですけれど、叔母の家が村の旧家で、その威光で無理に雇ってもらったという次第でございました、母の病気の時、母はくれぐれも女に気をつけろと、死ぬる間際まで女難を戒しめ、どうか早く立身してくれ、草葉の・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・さてまた当時において秀吉の威光を背後に負いて、目眩いほどに光り輝いたものは千利休であった。勿論利休は不世出の英霊漢である。兵政の世界において秀吉が不世出の人であったと同様に、趣味の世界においては先ず以て最高位に立つべき不世出の人であった。足・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・で、鉄道や汽船の勢力が如何なる海陬山村にも文明の威光を伝える為に、旅客は何の苦なしに懐手で家を飛出して、そして鼻歌で帰って来られるようになりました。其の代りに、つい二三十年前のような詩的の旅行は自然と無くなったと申して宜しい、イヤ仕様といっ・・・ 幸田露伴 「旅行の今昔」
・・・この勢力を名づけて政府の御威光または会社の力といい、この勢力を以て行う所の事を名づけて政府の事務または会社の事務という。即ち公務なり。この公務を取扱う人を名づけて政府の官員または会社の役員といい、この官員の理不尽に威張るものを名づけて暴政府・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫