・・・何処までも自己の中に自己否定を含み、自己否定を媒介として働くものというのは、自己自身を対象化することによって働くものでなければならない。表現するものが表現せられるものであり、自己表現的に働く、即ち知って働くものが、真に自己自身の中に無限の否・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・都て是れ双方の感情を害する媒介たるに反し、遠く相離れて相互に見るが如く見ざるが如くして、相互に他の内事秘密に立入らざれば、新旧恰も独立して自から家計経営の自由を得るのみならず、其遠ざかるこそ相引くの道にして、遠目に見れば相互に憎からず、舅姑・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・しめ、今年今月の政治の方向と今年今月の教育の組織とを併行せしめて、教育の即効を今年今月に見んとするときは、その教育は如何様にして何の書を読ましめ何の学芸を授くるも、純然たる政治教育となりて、社会物論の媒介たるべきのみ。 昔者、旧水戸藩に・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・倫理道徳の書にして尊信の一大要義を欠くときは、たとえこれを教うるも、いたずらに論議批評の媒介となりて、学生中においても、ひそかに是非喋々の言を聞くことあるべし。 ここにおいてか、これを教うる者は、もとより少年学生輩の是非論を許すべきに非・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・これまたその功名の価を損ずるところのものにして、要するに二氏の富貴こそその身の功名を空うするの媒介なれば、今なお晩からず、二氏共に断然世を遁れて維新以来の非を改め、以て既得の功名を全うせんことを祈るのみ。天下後世にその名を芳にするも臭にする・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 更に、その愛という言葉が、人間同士の思いちがいや、だましあいの媒介物となったのは、いつの頃からでしょう。そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまか・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・ですから、出版綱領実践委員会はエログロ出版取締のためという名目に乗ぜられて、新しい出版取締法をつくられる媒介になることはしまいとしました。これは正しい態度でした。 ところが、一年経ったらエログロ出版者たちは、おかしな風に右ねじりをはじめ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・人間が人間を生かし殺す力の媒介物たる金銭というものの魔術性をあらわにし、それが近代社会を支配する大怪物として蓄積されてゆく過程を明らかにして、人間性の勝利の実質、生産する者が生産を掌握することの自然さを示した社会科学者たちの業績と、それを実・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・心のしんでは、そして頭では、ひどくこれから書く小説のことについて集注的になりながら、何かそのための媒介物のようにこうやってこの手紙を書き、段々心持の落付きを深く感じつつあるの。 私の机の上には又、レビタンというチェホフ時代の風景画家の描・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・桜の園を媒介として、我々は、ロシアの異様に独特な魂が、現在、自分の魂の一部分をどんな眼で眺めているか、その眼付を理解することができるのだ。ガーエフは、緑色羅紗の上でおとなしく小さな白い球を転して一生を終った。今ロシア人は、ひろいグラウンドへ・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
出典:青空文庫