・・・ キャラメルが欲しいと、大きい子供まである姉さんにたのまれた妹は、これももう子持ちになっていて、キャラメル一つを、大きい注文うけた気でさがして歩いた。 と、ある店先にキャラメルが一箱あった。のしいか、かみ昆布、人造バタの妙なのなどと・・・ 宮本百合子 「諸物転身の抄」
・・・また、すきな物を召上れと云われ、実に嬉しいに違いないのに、「おらあ子持の時分から、腹の減るということを知らなかった女だごんだ」と云うように。後では、時節がよく成ると、皆の方から、田舎に行って世話をやいて来て下さいと云った。去年も五月に、私が・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・去年行った衆はたいがいもう三十越したったが……、私もこんど募集があったら行こうかと思っているが、どうも――子持ちだからねえ」 ネクタイをずらしたようにかけて、脱いだゴム長は坐席の下にたぐめたまま、此方を向いて紺足袋の片膝抱え、おとなしい・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・昔ドイツのカイゼルが三つのKと云った言葉はヒットラーの代になって子持の母への賞金とか独身税とかになって現れている。日本では良妻賢母という言葉によっては既に新しい刺戟を与えられないが、服飾や愛の技巧の研究に女が公然と物を云うようになると同時に・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・今日の日本では子持の街の女も、かなりの高率であるにちがいない。 結婚と、その分離である離婚が「人間の尊厳」のために男女の間に平等な人権であるならば、私たちは憲法にいわれているすべての人民は働くことが出来る、すべての人民は教育をうけること・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫