・・・ だが、極めて神経質で、学徳をも人格をも累するに足らない些事でも決して看過しなかった。十数年以往文壇と遠ざかってからは較や無関心になったが、『しがらみ草紙』や『めざまし草』で盛んに弁難論争した頃は、六号活字の一行二行の道聴塗説をさえも決・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・魚容は、もっともらしい顔をして、れいの如くその学徳の片鱗を示した。「何をおっしゃるの。あなたには、お父さんもお母さんも無いくせに。」「なんだ、知っているのか。しかし、故郷には父母同様の親戚の者たちが多勢いる。乃公は何とかして、あの人・・・ 太宰治 「竹青」
・・・無遠慮な Egoist たるF君と、学徳があって世情に疎く、赤子の心を持っている安国寺さんとの間でなくては、そう云うことは成り立たぬと思ったのである。 安国寺さんの誠は田舎の強情な親達を感動させて、女学生はF君の妻になることが出来た。・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫