・・・ 強て何か話が無いかとお尋ねならば、仕方がありません、わたくしが少時の間――左様です、十六七の頃に通学した事のある漢学や数学の私塾の有様や、其の頃の雑事や、同じ学舎に通った朋友等の状態に就いてのお話でも仕て見ましょう。今でも其の時分の面・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ そのうちに僕は中学へはいったが、途中でよしてしまって、予備門へはいる準備のため駿河台にそのころあった成立学舎へはいった。そのころの友人にはだいぶえらくなったやつがある。それから予備門へはいった。山田美妙斎とは同級だったが、格別心やすう・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・よって吾が党の士、相ともに謀りて、私にかの共立学校の制にならい、一小区の学舎を設け、これを創立の年号に取りてかりに慶応義塾と名づく。 ことし四月某日、土木、功を竣め、新たに舎の規律勧戒を立てり。こいねがわくは吾が党の士、千里笈を担うてこ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・それにこの神々が、人間の精神まで殺し終おせたように云われたのはまるで事実とは違う間違いですね。学舎の壁は火で煤け、天井はやっと夜露を凌ぐばかりだが学者達は半片の紙、半こわれの検微鏡を奇蹟のように働かせて、真理へ一歩迫ろうとしています。イ・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫