・・・そして人間の場合とこの動物の場合との区別に関する学説などがすべてばからしいどうでもいい事のように思われてならなかった。 どうかすると私はこのちびが、死んだ三毛の実子のうちの一つであるような幻覚にとらえられる事があった。人間の科学に照らせ・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・これに対する答としては更に色々な学説や臆説が提出され得る。これが源因の第二段階である。例えば地殻の一部分にしかじかの圧力なり歪力なりが集積したために起ったものであるという判断である。 これらの学説が仮りに正しいとした時に、更に次の問題が・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・このような記憶あるいは本能が人間種族からすっかり消え去らない限り、強者と弱者の関係はあらゆる学説などとは無関係に存続するだろう。 子供らはまたよくかやつり草を芝の中から捜し出した。三角な茎をさいて方形の枠形を作るというむつかしい幾何学の・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・これについてはたぶんその方面の学者たちの学説がいろいろあることと思われる。 いずれにしても、こんなふうに「化ける」ための化粧をするのはおそらく人間以外の動物にはめったにない事であろうと思われる。人間は火を使用する動物なりという定義とほぼ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 二 新しい学説が学界から喜んで迎えられるならば、それはその説がその当代の学界の痛切な要求にうまく適合するからであることは明らかである。もう十年も前から世界中の学者が口をもぐもぐさせて云おうとしていたが、適当・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・ 二 科学上の学説、ことに一人の生きているアダムとイヴの後裔たる学者の仕事としての学説に、絶対的「完全」という事が厳密な意味で望まれうる事であるかどうか。これもほとんど問題にならないほど明白に不可能な事である。た・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・応募答案の中には実に深遠を極めた学説のさまざまが展開されていた。しかし当選した正解者の答案は極めて簡単明瞭で「水はこぼれますよ」というのであった。 颱風のような複雑な現象の研究にはなおさら事実の観測が基礎にならなければならない。それには・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・これに反して年々に新しく書き改め新事実や新学説を追加しても、教師自身が、漸次に後退しつつある場合も考えられない事はない。この二つの場合のどちらが蓄音機のレコードに適するかを一般的概念的に論断するのは困難ではあるまいか。 蓄音機が完成した・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 父が話し好きであったからたいていの医師は来るとゆっくり腰を据えて話し込んでしまうのであったが、この楠先生もよくお愛想に出した葡萄酒の杯を銜んだりして、耳新しい医学上の新学説などを聞かせてくれたような記憶がある。この人の話した色々の話の・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・あるいは吹き抜き廊下のせいだというはなはだ手取り早で少し疑わしい学説もある。あるいはまた大概の学校は周囲が広い明き地に囲まれているために風当たりが強く、その上に二階建てであるためにいっそういけないという解釈もある。いずれもほんとうかもしれな・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
出典:青空文庫