・・・ この他、『唐詩選』の李于鱗における、百人一首の定家卿における、その詩歌の名声を得て今にいたるまで人口に膾炙するは、とくに選者の学識いかんによるを見るべし。わずかに詩歌の撰にして、なおかつ然り。いわんや道徳の教書たる倫理教科書の如きにお・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ 彼は、学識と伝統的なセルフレストレーンの力で、先ずハートに感じるものを、頭の力で整理したと云う人であった。人情によって理解し、直覚し得たところを、理想に燃える知で文学にした。情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・ 科学的な学識や知識が、素人が考えるより遙かに科学の精神とは切りはなされたままで一人のひとの中に持たれているという場合も、現代の実際にはある。 或る婦人があって、そのひとは医学の或る専門家で、その方面の知識は常に新しくとりいれている・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・こういう例をみても、婦人の地位とか学識だけが芸術を生むものではないということが判る。 ヨーロッパ諸国の資本主義社会がその発展の頂上に近づいた十九世紀になって、ルネッサンス以後十八世紀になってはっきり方向を定めた人間解放の問題が具体化して・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・知識人、インテリゲンツィアというと、知識人自身の間にのこっている習慣的な概括で、合理的な頭脳の活動をもち、学識と広い知的鍛練によって現実を客観的な歴史の真実に於て進歩的に把握し得る人々のように思うが、この概括は必しも現実に即していない。今日・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・謡は謡ですんで、内田さん、芥川さん、互に恐ろしくテムポの速い、謂わば河童的――機智、学識、出鱈目――会話をされた。どんな題目だったかちっとも覚えていない。感心したり、同時にこの頃の芥川さんは、ああ話す好みなのかと思って眺めた感じが残っていま・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
知性というとき、私たちは漠然とではあるが、それが学識ともちがうし日常のやりくりなどの悧巧さといわれているものともちがった、もう少し人生の深いところと関係している或るものとして感じとっていると思う。教養がその人の知性の輝きと・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ 現今、学識の深い女性は多くあり、特殊の技能を持った婦人は非常に増加しています。その中の或る者は、明に独立的人格者として、生涯を自己の意志で支配して、或は、するべき必要を感じているのです。然し、平時の生活はどうでもなりはしても、不時の災・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・ 彼女たちは、その家政科の学識を駆使して、まず一定の生産的な社会的な勤労に従う男女はどれだけの食餌、どれだけの休養、どれだけの文化衛生費を必要とするか、客観的な標準を立てて、さておのおのの収入総額によってどれだけの不足がどの部分に生じて・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
芥川龍之介が自分の才能とか学識を越えて社会と文学そのものの大きい変化と発展を見通して、そこから来る漠然とした不安を感じて死んだのと、太宰氏の生涯の終り方とは、まったく別種のものです。芥川の死は人生と芸術の大きさに対する確信・・・ 宮本百合子 「山崎富栄の日記をめぐって」
出典:青空文庫