・・・こんな安上りな事はなかろうじゃねえか?」「それはいけない。そんな事を云っては×××すまない。」「べらぼうめ! すむもすまねえもあるものか! 酒保の酒を一合買うのでも、敬礼だけでは売りはしめえ。」 田口一等卒は口を噤んだ。それは酒・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ヤトナというのはいわば臨時雇で宴会や婚礼に出張する有芸仲居のことで、芸者の花代よりは随分安上りだから、けちくさい宴会からの需要が多く、おきんは芸者上りのヤトナ数人と連絡をとり、派出させて仲介の分をはねると相当な儲けになり、今では電話の一本も・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・だいいち、ひどく安上りである。部屋代も要らない。 女に対して常に自信満々の田島ともあろう者が、こんな乱暴な恥知らずの、エゲツない攻略の仕方を考えつくとは、よっぽど、かれ、どうかしている。あまりに、キヌ子にむだ使いされたので、狂うような気・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・珍々先生は現にその妾宅においてそのお妾によって、実地に安上りにこれを味ってござるのである。九 今の世は唯さえ文学美術をその弊害からのみ観察して宛ら十悪七罪の一ツの如く厭い恐れている時、ここに日常の生活に芸術味を加えて生存の楽・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫