・・・今なら文部省に睨まれ教育界から顰蹙される頗る放胆な自由恋愛説が官学の中から鼓吹され、当の文部大臣の家庭に三角恋愛の破綻を生じた如き、当時の欧化熱は今どころじゃなかった。 先年侯井上が薨去した時、侯の憶い出咄として新聞紙面を賑わしたのはこ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・例えば美術や音楽の方面においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったようなことについて、具体的の実例をあげていわゆる官僚的元老の横暴を語るのであったが、それがただ冷静な客観的の噂話でなくて、かなり興奮した主観的な憤懣を流出させるのであっ・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・徳川時代の文学作品のあるものは、一種の町人文学として当時の官学流の硬い文学、経綸文学に対立し、庶民の日暮しの胸算用、常識を鋭く見て、例えば西鶴等はその方面の卓抜なチャンピオンであった。しかし、日本文学全体の歴史を通じて庶民の文学であるという・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・その意味で作家馬琴の所謂教養はつまらなくもあるけれども、今日の私たちに興味を抱かせる点は、官学派のようなこの作家も時代の活きた脈動には自ずとつきうごかされるところがあって、当時の諸国往来の風俗・俚謡・伝説などにつよい関心を示しているところは・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
出典:青空文庫