・・・ またその桔梗いろの冷たい天盤には金剛石の劈開片や青宝玉の尖った粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶のかけらまでごく精巧のピンセットできちんとひろわれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手に呼吸し勝手にぷりぷりふるえました。・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・ 窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼もさめるような、青宝玉と黄玉の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろの・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・たとえば僕は一千九百十九年の七月に、アメリカのジャイアントアーム会社の依嘱を受けて、紅宝玉を探しにビルマへ行ったがね、やっぱりいつか足は紅宝玉の山へ向く。それからちゃんと見附かって、帰ろうとしてもなかなか足があがらない。つまり僕と宝石には、・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・彼の二重瞼の大きな眼は明るい太陽の真下でも、体中に油を塗りつけた宝玉商の Thengobrind が「死人のダイヤモンド」を盗もうとして耳のような眼玉を輝かせた蜘蛛の魔物の膝元に忍び寄る姿を見るだろう。 真個に彼は、奇怪な美を持っている・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 文学作品そのものも、古典となってのこされているものは歴史の一面の宝玉であるわけだが、文学に於ける伝統としての歴史が今日果して、自然に創られた時のままの完璧さでそれらの古典をつたえるに堪えているだろうか。 歴史と文学との交渉で、この・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・彼らは経済学の見地に立てば社会の宝玉である。精神的観察よりすれば社会の悪毒である。皮相なる形式的道徳は「金持ち」にとって最も破りやすい。金持ちはついに人道を踏みはずす。吾人は自覚ある平和な農夫の家庭のむしろ尊きを思う。 かくのごとく一二・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫