・・・ この理想が実現せられるとして、教案を立てる際に材料と分布をどうするかという問に対しては、具体的の話は後日に譲ると云って、話頭を試験制度の問題に転じている。「要は時間の経済にある。それには無駄な生徒いじめの訓練的な事は一切廃するがい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それから、夢が阻止された願望の実現となるように、映画の観客は映画を見ることにより、実際には到底なれない百万長者になり、できない恋をしたり、不可能事をしとげるというようなことも言っている。これもおもしろい見方である。映画の大衆的であるゆえんは・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もっとも事実上はこの規準的関係の実現は存外困難であった。そうしてむしろかえってさんざん道楽をし尽くしたような中年以上のパトロンと辛酸をなめ尽くして来た芸妓との間の淡くして深い情交などにしばしば最も代表的なノルマールな形で実現されたもののよう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五六十年前の徳川の日本である。どの国もどの国も陸海軍を拡げ、税関の隔てあり、兄弟どころか敵味方、右で握手して左でポケットの短銃を握る時代である。窮屈と思い馬鹿らしいと・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・日本における教育を昔と今とに区別して相比較するに、昔の教育は、一種の理想を立て、その理想を是非実現しようとする教育である。しこうして、その理想なるものが、忠とか孝とかいう、一種抽象した概念を直ちに実際として、即ち、この世にあり得るものとして・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・なおこの理を適切に申しますと、幾ら形と云うものがはっきり頭に分っておっても、どれほどこうならなければならぬという確信があっても、単に形式の上でのみ纏っているだけで、事実それを実現して見ないときには、いつでも不安心のものであります。それはあな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・戦争をひきおこす日本の反動勢力を、私たちの社会から排除する、ということは、架空の道を通って実現することではない。今ここに提出されているいくつかの問題を、事実上私たちの発意と、集結された民主力とで、一歩ずつ解決に押しすすめてゆく、その一足が、・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ですから理想などというものは、実現されるまでのその間が楽しいものであって、充されてしまったら存外つまらぬものかもしれません。けれどもどんな人にも慾望や理想はいくらかずつは持っていましょうし、またそこに人生の面白味があるのではないでしょうか。・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・誰が命令するというでもないのに、一団の人々は有機体のように完全に協力と分業とで仕事を実現して行く。 私は息を詰めてこの光景を見まもった。海の力と戦う人間の姿。……集中と純一とが最も具体的な形に現われている。……力の充実……隙間のない活動・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・羅山はそれ以前から熱心な仏教排撃者であって、そういう論文をいくつか書いているが、それによると、解脱は一私事であって、人倫の道の実現ではない、というのである。同時にまた彼は熱心なキリシタン排撃者であって、仕官の前年に『排耶蘇』を書いている。松・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫