・・・事をしている真最中で、しかも時代はおそろしく迅速に展開しているようなとき、その相互的な関係の中で行われる作家個人の成長と時代の歴史的な消長との摩擦、融合の過程は恐ろしく複雑で、云ってみれば本人にもその実相が掴みにくいようなことなのではないだ・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・聴取料をはらっている家々の数は五百余万戸を超しているが、その何割が欠かさず聴いているか、そしてどこを聴いているかということも、社会の実相、生きた反映として放送する側の生活感覚に入っていていいのだろうと思う。〔一九四〇年十一月〕・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
・・・今日の切迫した社会的実相に頓着なく、再婚すれば扶助料とりあげと定っているから偽善的な内縁関係も生じるのであろう。市は赤字だといって市電従業員の賃銀を下げたが市会では暴力までふるって市議歳費値上げを決定した。府の扶助料とりあげの記事が何となし・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それ・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫