・・・やはり祇尼法であったろうことは思遣られるが、他の者に祈られて狐が二匹室町御所から飛出したなどというところを見ると、将軍長病で治らなかった余りに、人に狐を憑けるなどという事が一般に信ぜられていたに乗じて、他の者から仕組まれて被せられた冤罪だっ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 三 へリオトロープ よく晴れた秋の日の午後室町三越前で電車を待っていた。右手の方の空間で何かキラキラ光るものがあると思ってよく見ると、日本橋の南東側の河岸に聳え立つあるビルディングの壁面を方一尺くらいの光の板があ・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 気が付いたら室町の三越の横を走っていたので、それではじめてあらゆる幻覚は一度に消えてしまって単調な日常生活の現実が甦って来た。そうして越えて来た「試験」の峠のあとの青空と銀杏の黄葉との記憶が再び呼び返され、それからバスの中の女優の膝の・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 今度の素人従業員は素人だけにいろいろのエピソードをこしらえた。室町から東京駅行きのバスに乗ったら、いつものように呉服橋を渡らずに堀ばたに沿うて東京駅東口のほうへぶらりぶらりと運転して行く。臨時運転だからコースが変わったのかと思っている・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・一同にそこそこに挨拶をして、室町の達見という宿屋にはいった。 隊から来ている従卒に手伝って貰って、石田はさっそく正装に着更えて司令部へ出た。その頃は申告の為方なんぞは極まっていなかったが、廉あって上官に謁する時というので、着任の挨拶は正・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・しかしそういう変動を問題とするためには、その変動の前の室町時代の文化というものが、一体どういうものであったかを、はっきりと念頭に浮かべておかなくてはならぬ。 原勝郎氏はかつて室町時代は日本のルネッサンスの時代であると論じたことがある。日・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫