・・・同じ白石の在所うまれなる、宮城野と云い信夫と云うを、芝居にて見たるさえ何とやらん初鰹の頃は嬉しからず。ただ南谿が記したる姉妹のこの木像のみ、外ヶ浜の沙漠の中にも緑水のあたり、花菖蒲、色のしたたるを覚ゆる事、巴、山吹のそれにも優れり。幼き頃よ・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・しおがまにてただの一銭となりければ、そを神にたてまつりて、からからとからき浮世の塩釜で せんじつめたりふところの中 はらの町にて、宮城野の萩の餅さえくえぬ身の はらのへるのを何と仙台・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・蕪村の句には夕風や水青鷺の脛を打つ鮓を圧す我れ酒醸す隣あり宮城野の萩更科の蕎麦にいづれのごとく二五と切れたるあり、若葉して水白く麦黄ばみたり柳散り清水涸れ石ところ/″\春雨や人住みて煙壁を漏る・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 昔から有名な宮城野信夫の義太夫は、既に東北地方から江戸吉原に売られた娘宮城野とその妹信夫とを扱っているのである。殿様、地頭様、庄屋様、斬りすて御免の水呑百姓という順序で息もつけなかった昔から、今日地主、小作となってまで東北農民の実生活・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
出典:青空文庫