・・・ この微妙な美くしさは私の行く所どこへでも宝石よりくらべものにならないほど何か目に見えぬ貴いもので私の心の宮殿を造って呉れ、その中に私をいざない入れて呉れる。 凡そ世の中に自分の信仰して居る神をいやしむものが有るだろうか。 自分・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・ 有名な海岸、温泉場、山の避暑地に昔ブルジョアが建てた立派な別荘、宮殿がある。それが今は勤労者のための「休みの家」になっている。結核療養所になってるところもある。 各工場は、職業組合を通して、めいめい自分たちの「休みの家」を何処かし・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・遙か彼方に、第一級、上帝の宮殿が、輝くパンシーオン風の柱列をもって眺められる。ヴィンダーブラ、ミーダと連立って、上帝の宮殿の方から、ぶらぶら自分達の住居、第二級天の方にやって来る。ヴィンダーああ、偉い目に会った。筋も何もすっかり・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ お天気のいい朝鸛の鳥が小さい私をオパール色の宮殿から母さんの膝につれて来たんです。 それからあったかい日光と、よい空気と、甘いお乳で、やきたてのお菓子の様に育って、手足がたくましく真直になった時、私は跳る様にして、今日まで続いて居・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ 海にある通りの珊瑚が、碧い水底に立派な宮殿を作り、その真中に、真珠のようなたくさんの泡に守られた、小さな小さな人魚が、紫色の髪をさやさやと坐っています。 なんという綺麗なのでしょう。ユーラスは、すっかりびっくりしてしまいました。今・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・人形になる、天狗になる、蛇になる、天馬になる、スヒンクスになる、宮殿になる、様々に変ってやがて馬鹿にしたようにプッととんでってしまうから。 第四日 人間が無念無想になる時は、一日の中に可成沢山有る。私の一日中に無念無・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ 農民、工場に働く男女労働者のためには、昔の宮殿、ブルジョアの別荘がみんな今は「休みの家」或は「療養所」となっている。 この頃では、モスクワの停留場でさえ、母子休憩室がつくられ、特別母と子のための便利を考えて食堂までついているそうで・・・ 宮本百合子 「ロシア革命は婦人を解放した」
・・・彼女の部屋はチュイレリーの宮殿の中で、ナポレオンの寝室の隣りに設けられた。しかし、新しきナポレオン・ボナパルトは、またこの古い宮殿の寝室の中で、彼の厖大な田虫の輪郭と格闘を続けなければならなかった。 ナポレオンは若くして麗しいルイザを愛・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・あそこで大きな白熊がうろつき、ピングィン鳥が尻を据えて坐り、光って漂い歩く氷の宮殿のあたりに、昔話にありそうな海象が群がっている。あそこにまた昔話の磁石の山が、舟の釘を吸い寄せるように、探険家の心を始終引き付けている地極の秘密が眠っている。・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・だから数万の人々はこの正月に明治神宮を参拝して、摂政宮殿下の万歳を叫び、或いは安泰を祈り、それでもって右のような心持ちを表現した。 警衛ということはそういうわけで実現ができない。それでは街頭の宣伝はどうであろうか。これまで人前で演説など・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫