・・・そこで僕は今、この話を書く事によって、新小説の編輯者に対する僕の寄稿の責を完うしようと思う。もっとも後になって聞けば、これは「本間さんの西郷隆盛」と云って、友人間には有名な話の一つだそうである。して見ればこの話もある社会には存外もう知られて・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・この雑誌社は一月ばかり前に寄稿を依頼する長手紙をよこした。しかしこの雑誌社から発行する雑誌に憎悪と侮蔑とを感じていた彼は未だにその依頼に取り合わずにいる。ああ云う雑誌社に作品を売るのは娘を売笑婦にするのと選ぶ所はない。けれども今になって見る・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・というを寄稿したのはマダ東校に入学したばかりであった。当時の大学は草創時代で、今の中学卒業程度のものを収容した。殊に鴎外は早熟で、年齢を早めて入学したからマダ全くの少年だった。が、少年の筆らしくない該博の識見に驚嘆した読売の編輯局は必ずや世・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・それから喧嘩をして却って対手に知られた形で、北村君は国民の友や、国民新聞なにかへも寄稿するようになった。その中で、『他界に対する観念』は、北村君の宗教的な、考え深い気質をよく現わしたものである。それから国民の友の附録に、『宿魂鏡』という小説・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・さて今回本紙に左の題材にて貴下の御寄稿をお願い致したく御多忙中恐縮ながら左記条項お含みの上何卒御承引のほどお願い申上げます。一、締切は十二月十五日。一、分量は、四百字詰原稿十枚。一、題材は、春の幽霊について、コント。寸志、一枚八円にて何卒。・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ たまに新聞社から、随筆の寄稿をたのまれ、勇奮して取りかかるのであるが、これも駄目、あれも駄目と破り捨て、たかだか十枚前後の原稿に、三日も四日も沈吟している。流石、と読者に膝を打たせるほどの光った随筆を書きたい様子なのである。あまり沈吟・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・という端物の書き出しには、パリーのある雑誌に寄稿の安受け合いをしたため、ドイツのさる避暑地へ下りて、そこの宿屋の机かなにかの上で、しきりに構想に悩みながら、なにか種はないかというふうに、机のひきだしをいちいちあけてみると、最終の底から思いが・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・『ドイツ年誌』への寄稿をはじめた。カールはこの頃、ボンに住んだり、トリエルのヴェストファーレン家に暮したりして、つぎつぎの家庭的紛争に心を労していたといわれている。が、その内容を知るものはない。 カールとイエニーとが、長い七年間の婚約時・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・朝日新聞が、特別寄稿料として三十万円片山氏におくったと、ジャーナリズムでいわれているが、この金額を三六〇でわった千ドル弱で西ヨーロッパとアメリカが巡遊できようとも思えない。片山哲が首相であった時、一般都民が高い都民税に苦しんだ頃、同氏の税額・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に生じている。「金色夜叉」は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学の上にヒューマニティの提唱をもって立ち現れた。高く、広く、輝かしく飛翔せんと欲する・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫