・・・と、莞爾々々と声を掛けて、……あれは珍らしい、その訳じゃ、茅野と申して、ここから宇佐美の方へ三里も山奥の谷間の村が竹の名所でありましてな、そこの講中が大自慢で、毎年々々、南無大師遍照金剛でかつぎ出して寄進しますのじゃ……と話してくれました。・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・場所として最も近い東の廓のおもだった芸妓連が引札がわりに寄進につくのだそうで。勿論、かけ離れてはいるが、呼べば、どの妓も三味線に応ずると言う。その五年前、六月六日の夜――名古屋の客は――註しておくが、その晩以来、顔馴染にもなり、音信もするけ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・……ものによっては、一服寄進にあずかってもよいが、いったい何に効くんだい?」「――肺病です。……あきれたでしょうがな」「――あきれた」 かつて灸婆をつかって病人相手の商売に味をしめた経験から、割り出してのことだろうと、思わず微笑・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・に詣って蝋燭など思い切った寄進をした。その代り、寝覚めの悪い気持がしたので、戒名を聞いたりして棚に祭った。先妻の位牌が頭の上にあるのを見て、柳吉は何となく変な気がしたが、出しゃ張るなとも言わなかった。言えば何かと話がもつれて面倒だとさすがに・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そうしてこの頃では到る処の街頭で千人針の寄進が行われている。これは男子には関係のないだけに、街頭は街頭でも、何となくしめやかにしとやかに行われている。それだけに救世軍の鍋などとはよほどちがった感じを傍観者に与えるものである。如何にも兵隊さん・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・或時は 常春藤の籠にもり或時は 石蝋の壺に納め心 はるばると、祈りを捧げる 神よ、四時の ささやかな人間の寄進を 納め給え、と。冬見た私を、今日同じ私だと思うだろうか?又、雄々しい活力が、今私の心を揺る、・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・満州の戦のことばっかり書いて、慰問金寄附の金額がさながら浅草観音の寄進帳のようにズラリとすられている。世界には満蒙事件のほかにいろいろ大切なことが起っているでしょう。日本の中にだって手近いところで市電の大首キリが迫っているし、八幡製鉄所に千・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫