・・・スピノザの如くそれ自身によって理解せられるといっても、既に理と事とが二つになる、本質と存在とが対立する。単にそれ自身によって理解せられるものは属性である、実体ではない。無限なる属性の基体としての神は、コンポッシブルの世界の主体、事の世界の主・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・とかいふ言葉がないのは不思議であるが、実際ニイチェの思想の中には、多くの矛盾した対立があり、且つ複雑した多要素が混入して居るので、単純にこれを一つの概念でイズムに形態化することができないのである。人々は各ニイチェの多様質の宇宙の中から、夫々・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・我が人民の智力学芸に欠点あるも、よくこれを容れてその釁に切込むことなく、永く対立の交際をなして、これに甘んずる者か。余輩断じてその然らざるを証す。結局双方の智力たがいに相頡頏するに非ざれば、その交際の権利もまた頡頏すべからざるなり。交際の難・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・人類愛という声がやかましく叫ばれるときほど、飢えや寒さや人情の刻薄がひどく、階級の対立は鋭く、非条理は横行します。 わたしは、愛を愛します。ですから、このドロドロのなかに溺れている人間の愛をすくい出したいと思います。 どうしたら、そ・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・ 昨今のように、一般の社会状勢が息苦しく切迫し、階級対立が最も陰性な形で激化しているような時期に、鬱屈させられている日常生活のせめてもの明るい窓として、溌剌として、新しい恋愛がどことなし人々の心に翹望されていることは感じられる。しかも、・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・親と子、世代と世代とが、マルクシズムに対する観念上の対立というようなもので固まってしまうことができないほど、生活問題がじかに迫っているわけです。人民の統一戦線は、うちのなかまで入って来ています。だから若い進歩的な人々は、ただ親を――古い時代・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ われわれの問題は、文学と云うものが、此の資本主義を壊滅さすべき武器となるべき筈のものであるか、或いは文学と云うものが、資本主義とマルキシズムとの対立を、一つの現実的事実として眺むべきか、と云う二つの問題である。 更に此の問・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・とを非常にきらう。そうして彼ら自身の感じ方がすでに概念的であることには気づかない。二 私はここで「自然」の語義を限定しておく必要を感ずる。ここに用いる「自然」は「人生」と対立せしめた意味の、あるいは「精神」「文化」などに対立・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・それが明白に異なった様式をもって石垣と門とに対立したとき、石垣や門はいわば額縁の中に入れられた。すなわちそれらは fr sich になった。そこで石垣や門の持っている固有の様式がまた明白に己れ自身を見せ始めたのである。石垣や門の屋根などの持・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫