・・・あなた方だって、自分の体が満足なら細君を所謂女らしく封じて置けるだろうが一朝永患いをして金がないとなったら、警視庁が五年十年と養ってはくれないでしょう。細君がやっぱり何とか稼がなければならない。そうなったとき時間が永すぎるとか、賃銀がやすす・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・茶坊主政治は、護符をいただいては、それを一枚一枚とポツダム宣言の上に貼りつけ、憲法の本質を封じ、人権憲章はただの文章ででもあるかのように、屈従の鳥居を次から次へ建てつらねた。 おととしの十二月二十日すぎに、巣鴨から釈放されて、社会生活に・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ところが、この年の初頭に一部の指導的な学者・文筆家が自由を失い、また作家のある者が作品発表の場面を封じられた事実は、文学の本質というよりも一層直接な形で作家・評論家の社会的動向に影響した。顧れば昭和九年「不安の文学」がいわれた時代、日・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 金の櫛をさして眼の細い土人形の姫だの、虫封じのお守りの小さい首人形をながめながら、しっとりと重い髪の毛のひだを撫でて居りますと、包まれた様に柔かな心の底から、何がなし光がさし出て来る様な気が致します。 この上なくしずまった心で貴方・・・ 宮本百合子 「たより」
・・・いつも封じめには封蝋の代りに赤だの青だののレースのような円い封印紙が貼りつけられた。小さい私は、そのテーブルのわきに立って、やがてオトーサマと紙からあふれるような字を書くことを習った。あとにはいつもつづけて、ハヤクオカエリナサイ、と書いた覚・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・ その日の晩、東の対の光君の御部屋からと云って童が一つしっかりと封じた文をもって来た。何かといぶかりながら上包をとると、「私からうちつけに文などをさしあげましてまことに恐入りますが、私の心に同情下さいますなら御開き下さいませ、もしそ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 仕事の封じられた大きい机は、何と嵩ばって、艶がなくなっていただろう。 或る晩、ひろ子は、心のもってゆき場がなくなって、駅前の通りへふらりと出て行った。よしず張りの植木屋があって、歩道に風知草の鉢が並んでいた。たっぷり水をうたれ、露のた・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・東海の封じられた小島としての条件のなかで、我々の祖先の秀抜な人々が、真理を求め、知識をさがして生命の危険さえ冒しながら粒々刻苦して、偶然渡来した医書や物理書の解読や翻訳に献身した努力と雄々しさとは、前野良沢や杉田玄白が日本で最初の解剖書とな・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・旧い野蛮なツァーのロシアで、民衆は才能も生活力もはけ口を封じられていて、わけの分らない残忍さ、ひどい破廉恥と乱行。さもなければ生きながら腐ってゆくような倦怠、怠惰、憂鬱とけちくささが、ゴーリキイの人生をとりまいていました。その中から、ゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・なぜなら、この人たちは、当時の日本の支配者が、侵略戦争に対する批判や超国家主義への疑問を封じた、その立場によりたって、社会に階級があり文化に堕落性がある現代の歴史的事実を否定したのだから。そして、歴史の現実の内容づけなしにただ人間解放を叫ん・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
出典:青空文庫