・・・それにしてもユンケル氏が出て来ないのを不思議に思い、エスさんに尋ねて見ると、自分は全く家を間違っていたのであった。 昨年の秋、十数年ぶりに金沢へ帰って見た。小立野の高台から見はらす北国の青白い空には変りはないが、何十年昔のこととて、街は・・・ 西田幾多郎 「アブセンス・オブ・マインド」
・・・凡そ是等の迷は不学無術より起ることなれば、今日男子と女子と比較し孰れか之に迷う者多きやと尋ねて、果して女子に多しとならば、即ち女子に教育少なきが故なり。故に我輩は単に彼等の迷信を咎めずして、其由て来る所の原因を除く為めに、文明の教育を勧むる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・そんな風にしていましたから、人の世話ばかり焼くイソダンの人達も、わたくしの所へあなたのいらっしゃるのをなんとも申さないで、あれは二親の交際した内だから尋ねて往くのだと申していましたのです。 しかしわたくしがそんな気でいましたから、あなた・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・解すべからざるものをも解し、文に書かれぬものをも読み、乱れて収められぬものをも収めて、終には永遠の闇の中に路を尋ねて行くと見える。(中央の戸より出で去り、詞の末のみ跡に残る。室内寂として声無し。窓の外に死のヴァイオリンを弾じつつ過ぎ行くを見・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・その文に曰く橘曙覧の家にいたる詞おのれにまさりて物しれる人は高き賤きを選ばず常に逢見て事尋ねとひ、あるは物語を聞まほしくおもふを、けふは此頃にはめづらしく日影あたたかに久堅の空晴渡りてのどかなれば、山川野辺のけしきこよな・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・とホモイが言いました。 兎のお母さんは箱から万能散を一服出してホモイに渡して、 「もじゃもじゃの鳥の子って、ひばりかい」と尋ねました。 ホモイは薬を受けとって、 「たぶんひばりでしょう。ああ頭がぐるぐるする。おっかさん、まわ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・と尋ねて行った。彼女は間もなく戻って、気味わるそうに仙二に告げた。「――あの婆さま――死ぬんじゃあんめえか」「そんなか?」「なんだか――俺やあな気がしたわ」 仙二が行って見た。翌朝、彼はぶっきら棒にいしに命じた。「飯・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・彼らはまた穀類の出来不出来の評判を尋ね合っている。気候が青物には申し分ないが、小麦には少し湿っているとの事。 この時突然、店の庭先で太鼓がとどろいた、とんと物にかまわぬ人のほかは大方、跳り立って、戸口や窓のところに駆けて出た、口の中をも・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・それを疑って別に原因を尋ねようとする余地はなかったのである。 中陰の四十九日が五月五日に済んだ。これまでは宗玄をはじめとして、既西堂、金両堂、天授庵、聴松院、不二庵等の僧侶が勤行をしていたのである。さて五月六日になったが、まだ殉死す・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・サア鋤を手に取ッたまま尋ねに飛び出す畑の僕。家の中は大騒動。見る間に不動明王の前に燈明が点き、たちまち祈祷の声が起る。おおしく見えたがさすがは婦人,母は今さら途方にくれた。「なまじいに心せぬ体でなぐさめたのがおれの脱落よ。さてもあのまま鎌倉・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫