・・・ 三 文楽の義太夫を聞きながら気のついたことは、あの太夫の声の音色が義太夫の太棹の三味線の音色とぴったり適合していることである、ピアノ伴奏では困るのである。 小唄勝太郎の小唄に洋楽の管絃伴奏のついた放送を聞い・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ わたくしはこの忘れられた前の世の小唄を、雪のふる日には、必ず思出して低唱したいような心持になるのである。この歌詞には一語の無駄もない。その場の切迫した光景と、その時の綿々とした情緒とが、洗練された言語の巧妙なる用法によって、画より・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・歌舞伎小唄浄瑠璃抔の淫たることを見聴べからず。宮寺抔都て人の多く集る所へ四十歳より内は余り行べからず。 婦人が内を治めて家事に心を用い、織縫績緝怠る可らずとは至極の教訓にして、如何にも婦人に至当の務なり。西洋の婦人には動もすれば・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・の上に本をふせたまんま千世子は何か柔い節の小唄めいたものを歌って居た。「見えるの?」 篤は重なって肇の頭の上から千世子の様子を見た。「いつもより奇麗に見えるねえ。」「ああ。」「何故なんだろう。」「女の人なんか日光の差・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・を主題として交響楽を創り、ドラクロアのアトリエではユーゴオの小唄が口誦まれた。そして、ユーゴオ、ゴオチェ、メリメのような作家たちは、創作の間に絵を描いた。実に彼等は「すべての芸術において美しい色彩や情熱や文体を」ねらったのであった。 け・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・それと共に、フランス小唄のうまい、美食家の、「美しく煙草を吸い、奇智にとんで、男の知人を揺ぶる」ことのやめられない貴族学校出のオリガとの生活は、彼を歩いて来た道から脱する力をもっていることを理解しはじめた。ゴーリキイはオリガとしっかり抱き合・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ それにしても、パリへ二度もゆき、フランス小唄のうまい、美食家の「美しく、煙草を吸い、奇智に富んで、男の知人をゆすぶること」がやめられない貴族女学校出のオリガに、何故ゴーリキイは卒倒する迄ひきつけられたのであったろう。ゴーリキイは単に雌・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫