・・・童文学を専門にしている男のひとが、佐多稲子さんに、子供の本を書きたいと思いませんかと訊いたとき、稲子さんは、さあと云って、そう思わないという意味の答えをしたら、訊ねた人は大変案外そうに、そうかなア、と小首をかしげる表情をした。 私にもき・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・友達が訪ねて来ていろいろ現在のソヴェトでの女の暮しぶりについて話の末、その友達は不図思い入ったように、だけれど、一体ロシアというところは、昔から男より女の方がしっかりしていたところなのかしら、と云って小首を傾けた。 私は、そんな片手おち・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 雄鴨は、割合に美くしくない相手の羽根の模様に、仔細らしく小首を傾けたけれ共その、羽根の黒いポツポツが順序よく定まった大きさについて居ないと云う事は、却って全体の姿に若々しい不釣合、愛嬌と云う様なものを添えるばかりであると思いつくと・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・前座敷のビュッフェエにかよう足ようようしげくなりたるおりしも、わが前をとおり過ぐるようにして、小首かたぶけたる顔こなたへふり向け、なかば開けるまい扇に頤のわたりを持たせて、「われをばはや見忘れやしたまいつらん」というはイイダ姫なり。「いかで・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫