・・・漆黒の頭髪と、小麦色の頬と、痩せた鼻とを持った小柄の婦人であった。極端に吊りあがった二つの眼は、山中の湖沼の如くつめたく澄んでいた。純白のドレスを好んで着した。 アグリパイナには乳房が無い、と宮廷に集う伊達男たちが囁き合った。美女ではな・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 風呂から出て、高野さちよは、健康な、小麦色の頬をしていた。乙彦は、どこかに電話をかけた。すぐ来い、という電話であった。 やがて、ドアが勢よくあき、花のように、ぱっと部屋を明るくするような笑顔をもって背広服着た青年が、あらわれた。・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 照子は、痛快そうに小麦色の頬をゆるめて笑った。 ――照子の話を聞いて居るうちに、愛はこれ迄とまるで違った気持を彼女に対して持つようになった。照子の性格の中には、何か超道徳的なものがあるらしく思われて来た。いろいろ話をきかされて居る・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 来た時から黙って皆の話を聞いていた藍子が、その時突然小麦色の顔を赧らめ、鈴子に訊いた。「――そういうことみんな清田さんにも云ってあげなさるんですか」「ええ、ええ、私よく云うんですとも! 貴女が考えてる位のことは誰でも考えてます・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫