・・・現代の少壮と目されている作家等が、むきだしに十円会と金だかだけの呼び名で一定のレベルの経済生活と文壇生活とをしているグループの会を呼んでいるのは実に面白いと思う。 十円の金は十円の金で、どうでも使える。死金にもなり、悪銭にもなり、義捐金・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ その方が良人を失われた――而も御良人の年といえば、僅かに壮年の一歩を踏出された程の少壮である。――ここで夫人の受けられる悲歎、悲痛な恢復、新らしい生活への進展ということが、私にとって冷々淡々としておられる「ひとごと」ではなくなって来ま・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・五・一五以来、世間の耳目は少壮云々の形容詞で何となく男の血気を刺戟して来ている。今日「大人の文学」を唱え、文壇を出たいという心持を何処にか持っている作家達は、年配から言っても所謂少壮の幹部どころの年齢であり、文学者の従来の生活には少なかった・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・しかしながら私は、林君が近頃新聞に書いていたように、今は作家の少壮放蕩時代だ、何でもかまわず作家よ、あばれたければうんとあばれろという風にだけ理解していない。プロレタリア文学の作品が多様化すればするほど、ますます確乎とした階級的基準にたって・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・この少壮貴族・将校を中心とする叛乱の計画は一貴族の卑劣な裏切りによって悲劇的失敗をとげ、その後一時沈滞した解放運動は、四〇年代になるとモスクワ大学の研究会となって、再び若々しく甦って来た。ゲルツェン会とスタンケウィッチ会とがそれであった。ツ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・嫡子光尚の周囲にいる少壮者どもから見れば、自分の任用している老成人らは、もういなくてよいのである。邪魔にもなるのである。自分は彼らを生きながらえさせて、自分にしたと同じ奉公を光尚にさせたいと思うが、その奉公を光尚にするものは、もう幾人も出来・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 今日の主人増田博士の周囲には大学時代からの親友が二三人、製造所の職員になっている少壮な理学士なんぞが居残って、燗の熱いのをと命じて、手あきの女中達大勢に取り巻かれて、暫く一夕の名残を惜んでいる。 花房という、今年卒業して製造所に這・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ * * * パアシイ族の少壮者は外国語を教えられているので、段々西洋の書物を読むようになった。英語が最も広く行われている。しかし仏語や独逸語も少しずつは通じるようになっている・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・あの男が少壮にして鉅万の富を譲り受けた時、どう云う志望を懐いていたか、どう云う活動を試みたか、それは僕に語る人がなかった。しかし彼が芸人附合を盛んにし出して、今紀文と云われるようになってから、もう余程の年月が立っている。察するに飾磨屋は僕の・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・当時秋月には少壮者の結べる隊ありて、勤王党と称し、久留米などの応援を頼みて、福岡より洋式の隊来るを、境にて拒み、遂に入れざりしほどの勢なりき。これに反対したる開化党は多く年長けたる士なりしが、其首にたちて事をなす学者二人ありて、皆陽明学者な・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫