・・・ 吉川英治、林房雄、尾崎士郎、榊山潤の諸氏によって、作家の戦線ルポルタージュは色どり華やかである。綜合雑誌の読者はこれらの作家によって書かれた報告的な文章を立てつづけて幾つかよまされているのであるが、果してこれ等のルポルタージュがニュー・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 尾崎紅葉の「金色夜叉」は、貫一という当時の一高生が、ダイアモンドにつられて彼の愛をすてた恋人お宮を、熱海の海岸で蹴倒す場面を一つのクライマックスとしている。明治も中葉となれば、その官僚主義も学閥も黄金魔力に毒されてゆく。 もし、昔・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ だから、そういう時代に本をよみはじめる年ごろになった若いひとたちは、偶然よんだ小説が、竹田敏彦であったり、尾崎士郎の従軍記であったり、火野葦平の麦と兵隊であったりした。本をよむことそれ自体が、一人の人間の生活の環のひろがりを意味するし・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・戦争については周知のような態度であった尾崎士郎のような作家でさえ、あわただしい雑記のうちに、印象が深められずに逸走してしまう作家として苦しい瞬間のあることをほのめかしている。火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・同時に Earl Hall に於て尾崎行雄の演説がある。其をききに行きたい人もあるので、どちらにするかと云うことが少し問題になり、結局、Earl に行く。矢田夫人に会う。今日まで何うしても会えなかった和田が野中夫人と来て居るのを知る。帰りに・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・を初めて日本語に翻訳して、日本の婦人に一つのゆたかな力をおくりものとしてくれた人が、ほかならぬ尾崎秀実氏であったことである。 一九一四年に第一次欧州大戦が始まった。ケーテはその秋、次男を戦線で失った。この大戦の期間から、それにひきつづく・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・と題してきり出された勇ましいその評論も、すえは何となししんみりして、最後のくだり一転は筆者がひとしおいとしく思っている心境小説の作家尾崎一雄を、ひいきしている故にたしなめるという前おきできめつける、歌舞伎ごのみの思い入れにおわった。ジャーナ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・彼独特の発声法で、中間派作家とその作品を罵倒しながら、最後には、ひいきの尾崎一雄を、その「『アミ』がいくらか古めかしく」純粋になってしまって現代生活の流れに浮いた「アクタモクタの全部は尾崎のアミに引っかからなくなっている」という不平はとなえ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 十日ばかり前、この文芸欄で尾崎士郎氏が「三十代の作家たち」の今日の在りようについて面白い観察を書いていられた。その中でも、読者のことがとりあげられていた。三十代の作家の流行性との連関で、アインシュタインの「相対性原理」が科学からおよそ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・ この期間、明治文学の代表的作家及びその諸作が研究の対象としてとりあげられたことは、一つのプラスであった。尾崎紅葉、森鴎外、二葉亭四迷、夏目漱石等の作家が見なおされたのであるが、ここでも亦逢着する事実は、明治日本のインテリゲンツィアの呼・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫