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・・・早や七年も前になる……梅雨晴の青い空を、流るる雲に乗るように、松並木の梢を縫って、すうすうと尾長鳥が飛んでいる。 長閑に、静な景色であった。 と炎天に夢を見る様に、恍惚と松の梢に藤の紫を思ったのが、にわかに驚く! その次なる烏賊の芸・・・
泉鏡花
「瓜の涙」
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・・・動物はいないかと聞いたら「虎と尾長猿、おしまい、finished」といった。たぶん死んだとでもいう事だろうと思った。 水道の貯水池の所は眺望がいい。暑そうな霞の奥に見える土地がジョホールだという。大きな枝を張った木陰のベンチに人相の悪い・・・
寺田寅彦
「旅日記から(明治四十二年)」